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「総持ち」の庭

「庭のホテル 東京」で、宮大工棟梁である小川三夫さんの話を聞く機会に恵まれました。

小川さんは、法隆寺の宮大工棟梁、故西岡常一さんに師事して、

飛鳥時代から続く日本古来の建築技術を学ばれた方です。

一度は断られたものの、念願かなって西岡さんの門に入った頃は、

鉋を研ぐなどひたすら研ぎ物だけの日々だったようです。

一度、先輩に誘われある寺を見学に行って帰ってくると、

そんな暇があるなら刃物を研げと言わんばかりに、

西岡さんは、近寄れないほど不機嫌だったといいます。

そんな西岡さんが、ある日頑張っている小川さんのところへ来て、

鉋を曳いてみせてくれたそうで、その鉋屑は、ずっと窓ガラスへ貼っていたそうです。

今日は、小川さんが槍鉋(やりがんな)を曳いてみせてくれました。

この研ぎ抜かれた鉋で木を削ると、

ガラス板と同じように、水をはじき、水滴が浮かぶそうです。

小川さんが槍鉋で削った鉋屑をいただいてきました。

最後には、規格物ではなく太かったり細かったり、

曲がっている不揃いの木々を適材適所で使って

古代建築はできているという話から、

それは人間社会も一緒で、秀でた人達ばかりではなく、

それぞれの個性を持ったいろんな人達が集まって支え合ってこそ、

いいコミュニティーはできるという話になりました。

建築用語に「総持ち」という言葉がありますが、それは

一本の木が他の木を支えるのが原則ですが、組上がった木々などが総合的に絡み合って、

単体としての木以上の強度や耐久性を、全体として発揮するような状況を言うようです。

それは、伝統構法をとても魅力的にしているものですが、

私たちが庭で目指していることも、一本の銘木や一つの銘石を強調することではなく、

曲がったりして癖のある不揃いの木々を組み合わせて、

全体として雰囲気を出していく「総持ち」の庭です。

それが、木々だけでなく、虫や雑草、微生物など個々の生命体が有機的に絡み合って

渾然一体となったものとなっていければ良いなと思っています。(T)