降り積もった雪が流れ出す雨水の頃。
凍てついていた大地も緩みはじめ、潤いを増してきました。
歩くとサクサク音を立てていた落ち葉も、弾力がなくなり土に還る準備に入ってきています。
春に向けて嵐とも呼べる風が多くなり、一雨ごとに暖かくなって、さまざまな命が動き始めます。
そんな雑木林の主役、コナラとクヌギ。
一見、同じような姿で見分けがつきません。しかし、よく見ると幾つもの違いがあります。
秋はドングリなどで違いがはっきりと分かりますが、冬場は幹肌で見分けます。
若木ではなかなかプロでも見分けるのは難しいのですが、
ある程度の成熟した樹木になってくると、幹に縦の筋がはいってきます。
野趣味あふれるその幹肌は美しく、雑木の王様と呼ばれいます。
この木はクヌギ。コナラに比べると色も濃く、縦割れの筋もゴツゴツと荒々しさを感じます。
コナラとクヌギは昔から人の暮らしと共にありました。
薪にしたり炭にしたり、榾木となり椎茸をつくったり。
里山の雑木林には多くの生き物が共存しています。
浅間山でも樹木の更新と林床に光をあて健康な土地を維持していくため、伐採が行なわれています。
再生していく雑木だからこその工程です。
春には新芽が芽吹く10年後には立派な樹木になっていきます。
その雑木を切り出し、薪を暮らしの中で使ってきました。
写真家である今森光彦さんの著書で、『萌木の国』という本があります。
その中に『やまおやじ』と名付けられたクヌギの古木が出てきます。
堂々とした風格を持ち、何代にもわたって受け継がれてきた生きた文化財です。
この浅間山にもスケールは小さいのですが、ちょっぴり似ているやまおやじがいました。
人と共に生き続けている雑木林。幾つもの生き物が良い生態系のもとで過ごしています。
何代も先の人たちにも、この自然は残していかなければなりません。
小さなやまおやじが貫禄を増し、風格ある本物の主になるにはまだまだ時間はかかります。
明るい未来の為に、これ以上自然を破壊するのではなく、
豊かな土地を再生していく努力をしなければいけません。 (F)