今日は、中秋の名月です。
現場の近くの原っぱで、すすきを取ってきました。
満月は豊穣のシンボルであり、月光には心霊が宿っていると信じられてきました。
農業を営む家では、月を愛でるということよりも、農耕儀礼としての色彩も強いようです。
すすきに添える花としては、オミナエシやキキョウ、ワレモコウなどがありますが、
今年は萩と合わせて、花瓶に入れてみました。
団子や里芋、丸い果物も定番のようです。
このお月見のアイテムとして欠かせないススキは、屋根を葺く材料としても重要なものでした。
一昔前までは、田畑の面積以上に、野原があり、そこにはススキ、ヨシ、カリヤス、チガヤ、
クマザサなどあらゆる種類の草が生えていました。
茅葺き屋根というものがありますが、茅というのは、屋根を葺く草の総称で、
上記のものも含め、あらゆる草を指します。
そんなお話を聞かせてくれたのは、「小屋と倉」や「住まいの伝統技術」の著者である
先日、竹中工務店内のギャラリーエークワッドで行われたこの講演会のタイトルは、
「里山に学ぶ〜草と木で作る屋根〜」。
森林での生活の名残が残る山奥の村では、カバ葺きや木羽葺き、杉皮葺き、
桧皮葺きが残っていますが、
平地では、稲作の発達と共に草で屋根を葺く茅葺きが主流となりました。
この茅は、牛馬の燃料(食料)であり、屋根に使われ、その役目を終えたあとは、
田畑の肥料となり、まさしく循環していて、その功績は現在の石油にも匹敵するほどです。
それが、農林業の衰退と共に、茅葺き屋根も減っていきました。
しかし、それは過去の美しい遺跡の話ではなく、こんな光景こそ
未来の姿であると仰っていたことに、とても希望が持てました。
里山という言葉を世に広めた写真家の今森光彦さんも同じようなことを言っています。
「秀美な棚田。日本人が、心の中に持ち続けるアジアの原風景であり、これから再生すべき
未来の風景ともいえる。私達が失ってはいけないものが、この中にある。」
次の世代の幸福な暮らしのために欠かせない要素に、きれいな水、土、空気というものがあります。
経済はもちろん大切でしょうが、きれいな水や土、空気という基盤の上にしか、
持続可能な経済というものは成り立っていかないことは自明の理であるような気がします。
そうだとすれば、それらを脅かすような技術は、いかなる理由があろうとも、
除外していきたいものです。
中秋の名月を眺めつつ、こんな季節の行事を、孫の孫、そのまた先の代までも、
伝えていきたいなあと、しみじみ思います。(T)