「春の眠りはここちよく、いつ夜が明けたか気がつかない。」
「あちらでもこちらでも、鳥のさえずりが聞こえる。」
「昨夜は雨まじりの風が吹いていた。」
「花がいったいどれくらい散っただろうか。」
二日続いた雨も上がり、一段と温かさをまして、
こんな孟浩然の「春暁」の漢詩がぴったりの日和となりました。
春爛漫の小石川植物園からは、旧東京医学館本館がきらきらと望めます。
こちらは東京国立博物館本館です。
ジョサイア・コンドル設計の旧館は、関東大震災で惜しくも倒壊してしまい、
その後に建てられたこの建物は、帝冠様式と呼ばれ、洋風のコンクリート造建築物に
和風の塔や破風を配されています。
今は、その裏の庭園もちょうど解放されていて、
池の周りに配された五棟の茶室も見ることができます。
寛永寺本坊跡に作られたこの博物館は、本館、表慶館、法隆寺宝物館、平成館からなり、
中央の広場には、こんな立派なユリノキが伸び伸びと枝を思う存分空へと広げています。
この平成館で、いま行われているのが、
「ボストン美術館 日本美術の至宝 特別展」。
楽しみにしていました。
博物館や美術館には、それぞれキュレーターや学芸員の好みや傾向があり、
権威的な美術館でありながら、何度行っても心に響かないところもあれば、
ここのように、「阿修羅展」「細川家の至宝展」「空海と密教美術展」など
行く度に期待以上の感動と満足感を得られるところもあって、
自分の美意識や価値観から共感できる美術館は人それぞれです。
今回の一番の目玉は、奇才と呼ばれる曾我蕭白の「雲龍図」。
自由奔放で躍動感があって、力強くドラマチックな水墨画には、
ものすごいエネルギーが迸っていました。
他に、狩野永納の「四季花鳥図屏風」では、四季折々の風景の中で、
桜から紅葉までの変遷に、様々な鳥たちが遊び、
林床にも、何とも言えない濃いブルーの水辺の脇で、こと細かく四季の草花が描かれ、
植木に携わる職業を選んだ心をくすぐります。
念願の伊藤若冲の絵にも思いがけず出会え、日本の美の奥深さを再認識すると共に、
明治維新後の欧米化に始まり、戦後より顕著になって今まだ続く、
グローバリゼーションの波の中で失い続けているものの大きさを感じます。
落葉樹の中でも芽吹きの早い柳の新緑は、
なんともいえず美しく、その影を法隆寺宝物館前の水面に落としていました。(T)