ブログ

観察力

日本庭園協会東京都支部の秋季見学会が東京の奥座敷、奥多摩の御嶽で行なわれました。
川合玉堂美術館と画伯が晩年を過ごされた偶庵の見学、庭師の河村素山氏と漆芸作家の並木恒延氏による講演会です。

河村素山さんは若かりし頃、設計施工をされた中島健氏のもとで、この玉堂美術館を手掛けられた方です。
借景を強く意識する為、京都の龍安寺のようなシンプルな構成をイメージされて造られたこの庭は、現在みどりの島のようにサツキの刈り込み仕立て(写真奥)で低く抑えられていますが、当初は杉苔であったようです。景石や延段などの石も現地調達で下の渓谷から拾い上げてきて据え付けたそうです。現場調達出来ることは、その風景に馴染みやすく、つながりを待たすことが出来よい雰囲気を醸し出します。
なかなか、住宅地では材料を拾い上げる事は出来ないのですが、景観を損なわないようにセンスよく土地のものを使って空間構成をしていく努力をしていかねばと考えています。

この延段は鍵形の手法で、素山さんは現在でもこの手方は使うと、嬉しそうに語ってくれました。
講演会では『素山流作庭作法』と題して、今までの経験をもとに様々なディテールや考え方などを解説していただきました。

現在、川合玉堂美術館は開館50周年記念展、『玉堂・江中師弟展』が行なわれております。
写真の方が玉堂最後の愛弟子、宇佐美江中氏です。

玉堂先生が晩年を過ごされた偶庵で10年近い時間をを共に過ごされました。当時のエピソード
を交え、現在非公開の偶庵でお話をしていただきました。ユーモアたっぷりのお話は、当時の情景の絵が浮かび、大変有意義な時間を過ごさせていただきました。

玉堂先生は常々、『私は大自然宗である』と語っていたそうです。自然を観察して学び受ける事が何よりも大事であると考えています。
雑木をこよなく愛され自邸も雑木の庭となっています。家寄りに雑木を植え庭と風景を繋げる事を意識していたようです。

現在、住まう人がいない為、庭は少々荒れていますが、その庭を見て下枝を払えば良くなるなど、あちらこちらで 声があがっていました。
何とかして良い雰囲気の漂う、玉堂先生が愛した庭を未来に残していければ良いのですが。

建築は母屋を中心に四阿が2棟建てられています。
四阿は現場設計で大工さんが相当苦労されたとか。玉堂先生が材料を決め、設計、スケッチを描いたそうです。
写真の四阿は方水居です。センスの良くまとまった素晴らしい四阿です。テーブルなどは水車の歯車を加工したものです。
流れが庭を横断するように流れていて、昔はヤマメやイワナなどを池に放していたようです。
現在でも流れの水は緩やかに陽に当たりキラキラしながら流れています。

建仁寺垣根の材料の山割りを作っていたおじいさんにお会いしました。
今時分の竹が一番長持ちしていいんだよ!と、せっせと作っていました。
私達も建仁寺垣根は作りますが材料は買ってしまう事が多いですが、このように一枚一枚作る事により気持ちが入っていく事を思い出させてもらいました。

昼食後、漆芸作家の並木恒延氏による講演会です。『私の原風景と表現世界』というタイトルで
お話をしていただきました。漆というと漆器のイメージでお椀などを連想しますが、
若い頃から絵を描きたいと思っていた並木さんは漆で絵を描いています。
漆表現の可能性を追求し続け、可能性のなかに個性的な絵画的表現を確立した並木さんの作品は、
漆の概念を突き破る衝撃の美しさがありました。
幾つもの工程がある漆の絵画は、様々な貝やウズラの卵などで彩られ、見る人たちに優美の気持ちを与えます。

常に一点品です。時間をかけ妥協をせずに打ち込む事は、漆も日本画も造園も同じです。
自然への観察力を高め、日々日常からの蓄積、引き出しを多く持つ事が大切なのでしょう。
創作意欲を高め全力で取り組む事が美をつくることには必ず必要です。
人の心を揺さぶり動かせるような力強い作品になるように、考えに考えて行動していく事が未来に繋がると言う事を改めて感じました。
ジャンルは違いますが、同じ美を求めていく方々からの熱いメッセージが身にしみました。
どうもありがとうございました。(F)