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日々の慈しみ

千葉県野田市に資材を仕入れに行った折、上花輪歴史館に寄りました。

創建当初の雰囲気を再現するために、しばしの休館期間を経て今年リニューアルされました。

この木賊垣は、釘を使わずに施されたもので、寸分の隙間もなく驚嘆するばかりの技術です。

贅を尽くして作られた館内は、どこもすごいな〜と感じずにはいられない技巧が施されていますが、

そんな見所とは違う場所でふっと胸の力を抜いている時に、

思いがけずどーんと心の奥底に響いて、すっと体に入ってきたのは、

おそらく作り手の作為の及ばないであろうこんな風景でありました。

館内では常駐スタッフが、落ち葉を掃き、萩をまとめて紐でくくり、

はびこっているゼニゴケに刷毛で食酢を塗って退治し、隅々まできれいに保っています。

醤油作りの道具や当時を偲ばせる道具も、

過去のものとは思えないくらいきれいな状態で保たれていて愛情を感じます。

庭でもそうであるように、一年に数度しか伺うことができない私達植木屋の手入れは、

良い空間を維持するためのほんの一助であって、そこに住まわれる方の日々の慈しみこそが、

何よりも心を打つ風景を生み出すのだなあと、そんなことを感じた素晴らしい歴史館でした。

資材を山梨県上野原市・陶陽庭へ運ぶと、少しですが紅葉が始まっていました。

ムラサキシキブは、紫色の優美なさまを源氏物語の作者になぞらえたとされています。

隣の敷地は、植林された杉林ではありますが、こうして柔らかい光が差し込むと美しいものです。

ここ陶陽庭は、放置された遊休地を買い取り、今日まで十年間かけて少しでも、

もともとこの地にあったであろう美しい雑木林に近づけようと木を植えてきたところです。

毎週末通い小屋を建て、少しずつ少しずつ育ててきました。

お客様からの頂き物や、町の解体現場から引き取ってきたものを主体に構成し、

私達の純粋な思いだけで、慈しんできた場所です。

そんな「空間作りの軌跡」は、

このホームページの「作庭例」の中の「陶陽庭」にも掲載されています。

全くの更地の状態からの変遷、四季折々の風景が分かります。

私達の思いの結晶ですので、ぜひご覧ください。(T)