藤倉造園設計事務所

そよそよとした庭 2年目の手入れ

朝早く事務所へと通う車内は、携帯画面に見入る人、イヤホンをしている人、

疲れきって寝ている人など、全体的にどんよりとした空気に包まれています。

ともすると自分もそんな波動に飲み込まれてしまいそうになる時もありますが、

この日は、新宿方面から上がる朝日を見て、歓声を上げている人が何人かいて、

そんな人達と乗り合わせることができると嬉しくなります。

この現場は、横浜市青葉区の庭。

ちょうど二年前に産まれました。

これは、もともとあった庭を更地にして、生け垣を植え終わったところです。

そよそよとした庭を望んでいた庭主さんの期待に応えるべく、

在来種の野山の木をバラエティ豊かに選んで、

林床は、本当の山の中のような雰囲気に近づけようと、

ウッドチップを敷き詰めてあります。

足の裏から伝わるフワフワとした感触は心地良く、雑草もあまり生えず、

落ち葉が落ちても全然気になりません。

L字型の庭の地形を活かし、蛇行して行く小道は、

この奥にはどんな風景が待っているのだろうという期待感を抱かせます。

これは、植栽後一年経った、ある夏の日の風景。

玄関前には、既存のシマトネリコがだけが勢いがあってボリュームがあるので、

それを手入れでうまく透かして軽くして、新しい雑木の仲間たちとの調和をとります。

そして、今日は二歳を迎えた庭の定期検診です。

今が盛りの紅葉がきれいな葉っぱをあまり落とさないように軽く整え、

かつ来年の庭の健康と風景を考慮しての手入れです。

この空間は、ギャラリーページのUM庭でもご覧いただけます。

事務所のすぐそこ、浅間山の木々も少しずつ少しずつ色づいてきました。

今年も残すところ後一ヶ月。

お客様達が気持ち良く新年を迎えられるように庭をきれいに整え、

かつ庭の木々が長い視野で見て良い住空間を醸成していけるように、

心を込めて、手を入れさせていただきます。(T)

蛍舞う庭へ

庭作りの依頼をしてくださるお客様達は、庭に様々な夢を抱いています。

花畑に憧れていたり、芝生の庭を夢見ていたり、

私達の得意とする雑木の庭を希望されていたり、

お話を伺っている時間は本当に楽しいひとときです。

その夢に少しでも近づける事ができ、なおかつ愛情を持って接していただけるように

飽きのこない、年々環境の良い空間にするにはどうすべきかと悩み考えている事は

非常に苦しく大変な事なのですが、同時に楽しくてしょうがない瞬間でもあります。

こちらの庭主様も色々な夢を語ってくださいました。

そして「蛍が庭で舞っていたら嬉しいな」の一言から全ては始まりました。

敷地内に井戸を掘ることから始め、その水をうまく利用して蛍を孵す環境にしていきます。

和の要素と山の源流付近の自然な雰囲気を併せ持った庭が条件です。

循環させるため水を漏らすことはできず、コンクリートを分厚く下打ちした人工の川ですが、

見た目は自然そのものの渓谷と見紛うできであると自負しています。

ただ、少しでも庭を自然に近づけたいと思いながらも、やむを得ずこうした工法を

取ってしまうことはとても心苦しいことです。

工期やコストの面、絶対漏らせないという心配からの判断なのですが、

古来から工法で川底を粘土とグリ石を使って仕上げる方法があり、

それなら自然の状態に近く、呼吸のできる流れを作ることができるので、

今後、チャンスがあればやらせていただきたいと思っています。

工事を始めた当初の写真です。

おおよその図面しか書かないのが私のやり方です。

図面に縛られず、その場その場で当初のイメージを超えて、

木や石達が適材適所に収まっていく様はなんとも言いようがなく、庭作りの醍醐味です。

流れの川底の表面は自然の渓流のように化粧していて、

その上には落ち葉がいい感じで堆積して、やがて土に戻っていきます。

その土や腐葉土をカワニナは好みます。そのカワニナを蛍の幼虫は食べて成長していきます。

何年かかけてゆっくりと蛍の育つ環境を整えていく予定です。

当然、無農薬での庭管理となります。

決して簡単ではないと思いますが、この庭から様々な生命の営みを感じながら

素晴らしい生態系が築かれる事を信じ、人と生物達の共生が成り立ち、

自然の息吹を感じながら暮らすことができたら素晴らしい事です。

 

 

 

小さな秋

昨日、今日と小金井市梶野町の現場で手入れです。

何十年と今の庭主様の前の代から、ずっと変わることなく家を見守り続けてきた赤松が、

毎年この季節になると私達を迎えてくれます。

この大きな松の手入れは、熟練の職人の技を持ってしても一人で丸一日かかります。

私達が新たに庭作りをする場合、新たに松を植えることはまずありませんが、

日本古来のこうした松の手入れも、この水準でやらせていただきます。

松はよく幹巻きといって冬になると藁を巻き付けて、春にそこに集まった虫ごと

焼いてしまう虫の駆除方法がありますが、こうしてほうきで幹をこすってやることでも、

虫に越冬させない効果がある他、幹の赤さを際立たせ美しく見せることもできます。

手入れでは、枝葉を落とすだけではなく、最後の仕上げ、林床の掃除が、

出来不出来を左右します。

私達は、燃料を浪費するだけでなく、大きな音で町の静寂を破ってしまう

ブロワーには頼らないようにしています。

柔らかいほうき、固いほうき、手ぼうきを使い分けて庭を丹念に清めていきます。

昼休みには、現場のすぐ横の畑で、とても立派な里芋とヤツガシラを作っている畑に魅せられ、

私達もヤツガシラを作っている身ですので、そのものすごい株立ちのどっしりとした芋を

栽培する秘訣を伺いに行きました。

その答えは、なるほどな〜というもので、ぜひ来年は試してみたいと思う秘訣であったのですが、

そのおじいさんが、手入れが終了する頃、里芋を一輪車で届けにきてくれました。

農薬などは一切使わず、肥料も特別やらず、藁をまいて温め、古畳で寒さをしのぎ、

昔からの方法で様々な食物を育てています。

声高にエコを叫ばずとも、本物は私達の身近なところに

静かに、しかししっかりと地に足をつけて、佇んでいるのだなあと嬉しくなりました。

お天道様が、まだ高いところから地面を照らしてくれている間に、

手入れは終わったので、ちょっと近辺を散策してみました。

11月も下旬だというのに温かい日は続き、紅葉も今ひとつですが、

忙しくて紅葉の名所に行けない私達の目をも身近な小さな小さな秋が楽しませてくれます。

庭は、なかなか本物の自然の美しさにかなうものではありませんが、

そんな場所へ、そうそう行けない私達の日常生活を潤して欲しいという思いがあって、

少しでも自然を感じたいという思いがあって、住環境を良くしたいという思いがあって、

そこで初めて存在価値があるのかもしれません。

そんな庭主様の思いに、少しでも添いたいという強い思いで、

日々、庭を引き出し、庭の手入れで、それを維持しております。(T)

 

国分寺の庭4年目の手入れ

日が暮れていくのもいっそう早くなり、慌ただしく手入れを行なう日々が続いております。

ほぼ毎日のように現場が変わっていく中で、私達の手掛けた庭のお宅を訪れるのも楽しみのひとつです。

私達が庭に手を入れ整えていけるのは年に1回、多くて2回です。庭主様達の庭への日々の愛情の掛け方で大きく雰囲気が変わってしまうのも

正直な所、かなりのウエイトを占めています。そんな中で、イメージした以上の環境になっている庭も多くあり、

住まう人たちの笑顔で迎えられるととても嬉しくなります。ここ、国分寺の庭も4年目を迎え、作庭当初より住環境として遥かに良い環境に

育ってきています。

庭スペースは駐車場を広めにとっている為、決して広くはありませんが、小さいながらにも雑木の特徴が生かされ山の雰囲気が味わえます。

手入れとして葉を落としてしまうのが惜しいぐらい気持ちよく木漏れ日が踊っています。紅葉も徐々に始まっており、クヌギの黄葉をはじめ、

様々な雑木達がコントラスト豊かに染まって眼を楽しませてくれました。

雑木の庭は四季折々豊かな表情を見せ楽しませてくれますが、欠点は何と言っても成長が早い所です。

住宅や敷地のバランス、下草育成のため林床への陽光を入れる為、放ったらかしで自然樹形にしていく事は住宅地では難しい事です。

雑木の手入れを柔らかく自然な感じに仕上げていく事は非常に難しいのですが、葉っぱの量で成長をコントロールしていき、

バランスよく手を入れる事で、よりいっそう環境を豊かにしていきます。環境が豊かになり、

庭主様の愛情の詰まった庭に家族が集い笑顔の絶えない空間になれば幸いです。(F)

 

足下の意匠

まとまった雨が降り足下の悪い本日ですが、

庭主様が日々の暮らしの中で何度となく伝う園路、

そんな足下の意匠を今まで藤倉造園設計事務所が施工してきた中から特集してみます。

こちらは縁側から庭の真ん中にあるテラスへと続く園路を枕木と御影石、レンガで構成したもの。

(詳細はギャラリー・SD庭空間作りの軌跡・SD庭 )

こちらは流れのある庭で、

その川縁の雰囲気を出すために河原に自然とできた道のようなイメージです。

(詳細はギャラリー・KH庭 http://fujikurazouen.com/gallery

セメントを多少使ってはいますが、土の質感を損なわないよう仕上げた三和土。

うっすらと残った水面の上に枝葉の陰が揺れます。

同じ現場の伝いの佇まいです。

こちらは、塀に使われていた大谷石を再利用して構成した駐車場です。

枕木と奥多摩の石で構成した来客用の駐車場から、互い違いのウッドフェンスを抜け、

二段上がって庭へと続くエントランス部分です。

そこから玄関へは、奥多摩の石を細かく砕いた山道の風情で案内します。

(詳細はギャラリー・TY庭 http://fujikurazouen.com/gallery

ラインのきちっと通った石の伝いと流れを柔らかく包み込む苔の足下。

(詳細はギャラリー・NT庭 http://fujikurazouen.com/gallery

こちらはセメントを使わず苦汁と石灰で仕上げた本物の三和土です。

(詳細はギャラリー・TU庭 http://fujikurazouen.com/gallery

自然石を連ねて道にするのも味があります。

(詳細はギャラリー・SK庭 http://fujikurazouen.com/gallery

なんといっても自然の造形が一番です。

そんなモミジの絨毯で包まれているのは山梨県上野原市の陶陽庭です。

(詳細は空間作りの軌跡・陶陽庭 http://fujikurazouen.com/example)

華やいだ気分の時も、沈んだ気分の時も、

足早に出て行く朝も、疲れて帰ってくる夜も、

日々変わることなく踏みしめる伝い、そんな足下の表情は様々です。

そんな中から、庭主様の日々の暮らしに寄り添った佇まいを引き出していきます。(T)

日陰の庭6年目の手入れ

多摩市にお住まいのI様の庭の手入れに訪れました。

早いもので設計施工させていただいてから6年の歳月が流れました。

玄関脇の小さなスペースに植えた雑木達も良い感じで木漏れ日を落としています。

雑木のボリューム感も増し建築とのバランスも良くなってきました。

物干スペースでもあるこの庭は洗濯物があるとちょっぴり山里の雰囲気を感じる事が出来ます。

北側の坪庭は作庭当初より格段に雰囲気を増しています。

黒土仕上げの林床はシダやコケなどが繁茂し始め良い環境が保たれています。

日照時間も限られ厳しい条件の中で元気よく育ってくれるかと当初心配しましたが、

厳しいながらも懸命に生きる植物の生命力に力を貰います。

西日がわずかな時間だけ差し込みます。植物にとって必要不可欠な陽の光が数時間入り込むだけでも

最近の都市住宅事情では贅沢なのかもしれません。

住宅が建ち並び、土地いっぱいに建築が建てられる現在、

緑のあり方も考えていく余地は多々あります。

渋さを出すためには暗い空間の方が有効的かもしれません。

その暗さをうまく活かし、住まう人にとって居心地の良い庭環境を

引き出して行くことが私達の仕事です。

緑の力を十分発揮出来る住空間にできるよう今日もまた一歩踏み出します。(F)

 

観察力

日本庭園協会東京都支部の秋季見学会が東京の奥座敷、奥多摩の御嶽で行なわれました。
川合玉堂美術館と画伯が晩年を過ごされた偶庵の見学、庭師の河村素山氏と漆芸作家の並木恒延氏による講演会です。

河村素山さんは若かりし頃、設計施工をされた中島健氏のもとで、この玉堂美術館を手掛けられた方です。
借景を強く意識する為、京都の龍安寺のようなシンプルな構成をイメージされて造られたこの庭は、現在みどりの島のようにサツキの刈り込み仕立て(写真奥)で低く抑えられていますが、当初は杉苔であったようです。景石や延段などの石も現地調達で下の渓谷から拾い上げてきて据え付けたそうです。現場調達出来ることは、その風景に馴染みやすく、つながりを待たすことが出来よい雰囲気を醸し出します。
なかなか、住宅地では材料を拾い上げる事は出来ないのですが、景観を損なわないようにセンスよく土地のものを使って空間構成をしていく努力をしていかねばと考えています。

この延段は鍵形の手法で、素山さんは現在でもこの手方は使うと、嬉しそうに語ってくれました。
講演会では『素山流作庭作法』と題して、今までの経験をもとに様々なディテールや考え方などを解説していただきました。

現在、川合玉堂美術館は開館50周年記念展、『玉堂・江中師弟展』が行なわれております。
写真の方が玉堂最後の愛弟子、宇佐美江中氏です。

玉堂先生が晩年を過ごされた偶庵で10年近い時間をを共に過ごされました。当時のエピソード
を交え、現在非公開の偶庵でお話をしていただきました。ユーモアたっぷりのお話は、当時の情景の絵が浮かび、大変有意義な時間を過ごさせていただきました。

玉堂先生は常々、『私は大自然宗である』と語っていたそうです。自然を観察して学び受ける事が何よりも大事であると考えています。
雑木をこよなく愛され自邸も雑木の庭となっています。家寄りに雑木を植え庭と風景を繋げる事を意識していたようです。

現在、住まう人がいない為、庭は少々荒れていますが、その庭を見て下枝を払えば良くなるなど、あちらこちらで 声があがっていました。
何とかして良い雰囲気の漂う、玉堂先生が愛した庭を未来に残していければ良いのですが。

建築は母屋を中心に四阿が2棟建てられています。
四阿は現場設計で大工さんが相当苦労されたとか。玉堂先生が材料を決め、設計、スケッチを描いたそうです。
写真の四阿は方水居です。センスの良くまとまった素晴らしい四阿です。テーブルなどは水車の歯車を加工したものです。
流れが庭を横断するように流れていて、昔はヤマメやイワナなどを池に放していたようです。
現在でも流れの水は緩やかに陽に当たりキラキラしながら流れています。

建仁寺垣根の材料の山割りを作っていたおじいさんにお会いしました。
今時分の竹が一番長持ちしていいんだよ!と、せっせと作っていました。
私達も建仁寺垣根は作りますが材料は買ってしまう事が多いですが、このように一枚一枚作る事により気持ちが入っていく事を思い出させてもらいました。

昼食後、漆芸作家の並木恒延氏による講演会です。『私の原風景と表現世界』というタイトルで
お話をしていただきました。漆というと漆器のイメージでお椀などを連想しますが、
若い頃から絵を描きたいと思っていた並木さんは漆で絵を描いています。
漆表現の可能性を追求し続け、可能性のなかに個性的な絵画的表現を確立した並木さんの作品は、
漆の概念を突き破る衝撃の美しさがありました。
幾つもの工程がある漆の絵画は、様々な貝やウズラの卵などで彩られ、見る人たちに優美の気持ちを与えます。

常に一点品です。時間をかけ妥協をせずに打ち込む事は、漆も日本画も造園も同じです。
自然への観察力を高め、日々日常からの蓄積、引き出しを多く持つ事が大切なのでしょう。
創作意欲を高め全力で取り組む事が美をつくることには必ず必要です。
人の心を揺さぶり動かせるような力強い作品になるように、考えに考えて行動していく事が未来に繋がると言う事を改めて感じました。
ジャンルは違いますが、同じ美を求めていく方々からの熱いメッセージが身にしみました。
どうもありがとうございました。(F)

8年目の手入れ

この日の現場は千葉県市原市。

朝五時半に府中の事務所を出発し、車中で睡魔に襲われる頃、

市原の山中は霧の中でした。

この絵は、川合玉堂の「溪雨紅樹」

(山種美術館HPよりhttp://www.yamatane-shop.com/product/335

ですが、庭が完成して八年目の手入れをしに、霧中の現場へ到着して見た風景は、

この絵を想起させました。

現場へ到着すると慌ただしいもので、霧に霞んだ幻想的な風景は写真に収められませんでしたが、

これは、それが微かに残る様子を朝の一服の時間に撮ったものです。

この地では、木々を伸び伸びと育てることができるので、自然樹形を損ねることもなく、

八年の歳月を経て、より健やかになってきています。

そして、この写真は翌日の手入れ終了後の写真です。

このカットでは、分かり辛いですが、トラック一台分の枝下しをして、

かなり光と風が通るようになっています。

この庭は、都内在住の庭主さまの別荘ですが、

近所に住まう80歳にもなるおばあちゃんが、時々カブに乗って颯爽とやってきて、

林床を清めてくれています。

そんな風にして大切に慈しまれている庭は、一年ぶりに手入れに訪れても、

全く荒れた感じがなく、雑然ともしていなくて、むしろ清涼感に包まれています。

現場へ着いてもとても気分がよく、枝下しのピッチもぐんぐん上がります。

作業後に、流れへ水を流す時間は至福の一時です。

この写真からは、木立の雰囲気と庭の清潔感が伝わるのではないでしょうか。

私達の手入れはほんの一助で、この状態を保っている最大の功労者は、

さきほどの80歳のおばあちゃん、野口さんです。

とても若くて、元気で、明るくて、こんな風に歳を重ねたいと思わずにはいられない

素敵な方で、なんともいえない良い顔をされています。

なので写真を撮って載せたかったのですが、叶わなかったので、来年こそはと思っています。

かつて「照葉して名もなき草のあわれなる」と詠んだのは富安風生ですが、

この庭にある雑木と片付けられてしまう名もない木々を愛で、

私達もまだ少し早いながらも、紅葉狩りをしてみました。

とはいっても、ちゃんと、それぞれ立派な名を持っているもので、

以下に挙げた写真に写っている木々は庭にある沢山の木の一部です。

ドウダンツツジ、ダンコウバイ、ジューンベリー、ナンテン、コハウチワカエデ、

ハウチワカエデ、ムシカリ、リョウブ、オオモミジ、ヒサカキ、アブラチャン、マユミ、

ツバキ、ミヤマガマズミ、カラスウリ、ソヨゴ、ニシキギ、クロモジ、ヤマコウバシ、

サワフタギ、オトコヨウゾメ、ギボウシ、ハラン。

まさに色とりどりです。

ダンコウバイの葉とカラスウリの実を持ち帰り、

こうして部屋に飾ってみるのも一興かもしれません。

この市原の庭は、作庭例の中のギャラリー・KN庭(http://fujikurazouen.com/gallery)

でも紹介しています。

是非、ご覧ください。(T)

時を超えて

今年も残すところ、わずか二ヶ月、待ったなしで怒濤の手入れが始まりました。

この日は風もなく秋晴れのとても穏やかな一日です。午後から剪定枝を堆肥にするため、

陶陽庭に運び入れます。一年も寝かしておくと、とても状態の良い腐葉土が出来上がります。

その腐葉土を寒肥えとして、油かすや鶏糞など何種類かブレンドして木の根元に埋め込んだり、

畑の肥料として混ぜ込んでいます。

一般的に剪定枝はゴミとして処分されますが、こうして循環させることができると、

とてもゴミとは言えない立派な資源です。

陶陽庭がある上野原の地元農家の方々も「このような腐葉土が畑には一番良い!」と

喜んで貰いにきてくれます。

化学肥料に頼らず、うまく循環していけると素晴らしいのですが。

陶陽庭からの帰路、たまには違うルートを通ろうと、かつて長寿の村として有名になった

棡原(ゆずりはら)村を抜け、檜原村に出ました。

檜原街道沿いには秋川渓谷があります。とても良い渓谷です。

この渓谷は幼い頃からキャンプや釣りをしによく訪れたことがあります。

魚の方が一枚も二枚も上手な為、まったく川魚を釣った記憶はありませんが、

小学校卒業文集には趣味は釣りと書いてありました。

釣ったことは覚えていませんが、楽しく飛び回っていたことは覚えています。

なかなか渓谷上流には子供達だけでは行けず、親をはじめ大人の力を借りて行ったものです。

釣れない事を分かっていて付き合ってもらったことに、今さらながら感謝をしています。

この滝は、吉祥寺滝と呼ばれている所で、吉祥寺というお寺のそばにあります。

写真では伝わらないと思いますが、かなり豪快な滝です。

しばし佇んでマイナスイオンを十分吸収してきました。

五日市に入りしばらくすると、秋川渓谷沿いに炭焼き山菜料理の「黒茶屋」があります。

ここは250年前の庄屋屋敷を移築した母屋を中心に離れが点在しており、

山里の風情が味わえるお店です。

離れも茅葺きや杉皮葺きの屋根に苔や草、シダなどが生え、楽しませてくれます。

この「黒茶屋」は、私の尊敬する庭師・金綱重治氏の設計・施工の箇所もあります。

見に来るたびに新たな発見があり、勉強させられます。

「黒茶屋」からほど近くに広徳寺という応安6年(1373)に創設された

臨済宗の寺院があり、そこまで足を伸ばしました。

この写真は総門で入り口にあたります。檜皮葺きの下側が茅葺きとなっています。

参道沿いに進むと山門、本堂と続き、その山門は茅葺き二層式で美しさは絶品です。

このような地にひっそりと、こんなにも美しい建築が残っていることに感動すら覚えます。

堂々としたカヤやタラヨウの巨樹も歴史を感じさせます。。

時代を超えて感じることのできる美しさに接する中で、未来に恥じぬように、

今できる精一杯のことを考え、行動していかねばならないと強く感じた一日でした。(F)

 

 

 

 

 

 

筑波山麓を訪ねて

日本庭園協会東京都支部では年に一回、異業種の方をお呼びして講演会を行なっています。

異業種の方々から受ける刺激は大きく、たくさんの収穫が得られますが、

次回は、来年一月に筑波大学芸術学系教授で建築家の安藤邦廣氏にお願いを致しました。

安藤先生は民家や日本の建築文化を研究されている第一人者です。

高田造園設計事務所の高田宏臣さんの多大な尽力もあって、

今回の申し出を、「お力になれるのであれば」と快く引き受けてくださいました。

茅葺きの民家や農村景観が日本人の原風景として失ってはならないもの、

断熱性と通気性を兼ね備えた茅葺き屋根の優れた居住性が見直され、

茅は石油に替わる持続可能で循環する植物資源としても注目されています。

日本人のDNAに刻まれた原風景を、建築と庭で景観として取り戻し、

未来に繋がる大きなヒントを与えてもらえる講演会になると思います。

楽しみでなりません。詳細が決まり次第、お知らせ致します。

そんなお願いに筑波に行った折、筑波山に立ち寄りました。

関東で庭石といえば筑波石が最も有名であり、

苔も載りやすく良い雰囲気を出してくれます。恵まれた環境のもと石工職人も多い土地柄です。

車で移動中あちらこちらで、五輪塔や野仏などを目にしました。

宝筺山山頂には、鎌倉時代中期の宝篋印塔が置いてあるため、早く目にしたくて気持ちが焦ります。

なんとか山頂に到着!

なんとも美しい宝篋印塔が出迎えてくれました。

権力のためではなく名も無き民を救いたいという思いから生まれた美しさが、

時代を超えて人々の心に響き続けます。

現代も混迷深まる時代でありますが、今だからこそ、

本物のもの、本物の仕事、本物の景観へとシフトを入れ替え

軌道修正して行かねばならないのでしょう。

午後からは安藤邦廣氏が顧問を勤める里山建築研究所の花田さんのご案内で

平沢官衙遺跡と筑波山麓美六山荘を見学することができました。

美六山荘・離れの板倉は大正4年に建てられていた下館の石倉を、

筑波山麓に板倉造りとして再生してあります。

立派な松の梁組、建具、広々とした広縁が設けてあり開放的な空間になっています。

南側に張り出した庇の上の屋根は、草屋根でイチハツやカンゾウ、ノシバなどが植えられ、

季節の彩りを添えています。

この古民家は、かなりモダンで格好良く、暫く見とれてしまいました。

センス良く手を加えることで建築も庭も蘇りますが、かなり難しいことです。

断熱材や防水層にも新建材は一切使わず再生可能な植物だけで作っていながら、

デザイン的には茅葺きはこうあるべきと言う概念を上手に塗り替えた住まいではないでしょうか。

日本のこの場所にしかない景色、ホタルが舞う山里に馴染んだ風景でした。

このような建築を見せていただき感謝しております。どうも、ありがとうございました。

 

<追伸>

お知らせです。

安藤邦廣先生が代表理事を務める日本茅葺き文化協会で茅葺き体験ワークショップが、

世界遺産の合掌造り集落・五箇山で11月19日・20日に行なわれます。

定員はあるようですが、興味のある方は参加してみてください。

詳しいことや申し込みは下記のホームページからよろしくお願いします。(F)

http://www.kayabun.or.jp/