藤倉造園設計事務所

つながり

明治21年、英国人宣教師、A.Cショーが別荘を建てたことから、

その歴史が幕を開けた避暑地.軽井沢。

古き良き避暑地の面影を残す旧軽井沢は、美術館やホテル、

教会といった西洋文化の薫る名所が数多く点在しています。

広大な森の中の澄んだ空気の中にひっそりと別荘が建ち並んでいます。

ゆっくりと歩き散策するには最高なロケーション。

何とも言えない懐かしい風情が漂っています。

縁あって この素晴らしい環境の中での造園設計依頼を受けることになりました。

大きな樹木が立ち並び、どこまでも続いていく森。

建物と森とが自然に馴染み、違和感なく風景としてつながり、

全身で生命の力を感じることのできる庭づくりです。

建築〜庭. 庭〜森。

人工から自然への橋渡しとして、大きなウェイトを占めている庭。

改めて庭の重要性を感じます。

みどり豊かに潤いのある森と人が上手に共存出来る空間を目指して。

都内ではなかなか出会えないロケーションを最大限に活かし、スケール感を大きく

森とつながることを意識して考えていきたいと思います。(F)

 

 

 

春眠暁を覚えず

「春の眠りはここちよく、いつ夜が明けたか気がつかない。」

「あちらでもこちらでも、鳥のさえずりが聞こえる。」

「昨夜は雨まじりの風が吹いていた。」

「花がいったいどれくらい散っただろうか。」

 

二日続いた雨も上がり、一段と温かさをまして、

こんな孟浩然の「春暁」の漢詩がぴったりの日和となりました。

春爛漫の小石川植物園からは、旧東京医学館本館がきらきらと望めます。

こちらは東京国立博物館本館です。

ジョサイア・コンドル設計の旧館は、関東大震災で惜しくも倒壊してしまい、

その後に建てられたこの建物は、帝冠様式と呼ばれ、洋風のコンクリート造建築物に

和風の塔や破風を配されています。

今は、その裏の庭園もちょうど解放されていて、

池の周りに配された五棟の茶室も見ることができます。

寛永寺本坊跡に作られたこの博物館は、本館、表慶館、法隆寺宝物館、平成館からなり、

中央の広場には、こんな立派なユリノキが伸び伸びと枝を思う存分空へと広げています。

この平成館で、いま行われているのが、

「ボストン美術館 日本美術の至宝 特別展」。

楽しみにしていました。

博物館や美術館には、それぞれキュレーターや学芸員の好みや傾向があり、

権威的な美術館でありながら、何度行っても心に響かないところもあれば、

ここのように、「阿修羅展」「細川家の至宝展」「空海と密教美術展」など

行く度に期待以上の感動と満足感を得られるところもあって、

自分の美意識や価値観から共感できる美術館は人それぞれです。

今回の一番の目玉は、奇才と呼ばれる曾我蕭白の「雲龍図」。

自由奔放で躍動感があって、力強くドラマチックな水墨画には、

ものすごいエネルギーが迸っていました。

他に、狩野永納の「四季花鳥図屏風」では、四季折々の風景の中で、

桜から紅葉までの変遷に、様々な鳥たちが遊び、

林床にも、何とも言えない濃いブルーの水辺の脇で、こと細かく四季の草花が描かれ、

植木に携わる職業を選んだ心をくすぐります。

念願の伊藤若冲の絵にも思いがけず出会え、日本の美の奥深さを再認識すると共に、

明治維新後の欧米化に始まり、戦後より顕著になって今まだ続く、

グローバリゼーションの波の中で失い続けているものの大きさを感じます。

落葉樹の中でも芽吹きの早い柳の新緑は、

なんともいえず美しく、その影を法隆寺宝物館前の水面に落としていました。(T)

早春に賦す

 

ここ数日の暖かな天候に恵まれて、あちらこちらで春を告げる花たちが開花を始めています。

早春に咲く花は比較的、黄色の花をつける植物が多くあります。

マンサクやサンシュユ、アブラチャンなど鮮やかな可愛い黄色の花をつけます。

春の雑木の花は黄色から始まり、白色から紫色へと移っていき夏に向かっていくようです。

菜の花も綺麗に群れをなして咲いていました。

カタクリも雑木林の足元から顔を出しはじめました。

落ち葉にまぎれ、見過ごしてしまいそうな小さなカタクリの花。

これから群れをなして咲いてくると雑木林がにぎやかになってきます。

蜂や蟻などの虫たちの動きも活発になってくる頃です。


一雨ごとに暖かさを増し虫達も活発になる春の長雨に泣かされていた練馬の現場も、

今週に入り天候が安定してようやく竣工にたどり着きました。

二世帯住宅の中庭がデッキで繋がるプライベートな空間です。

境界のブロックが低く、視線が気になり部屋の窓のブラインドを開けることができませんでした。

そこで目隠しとしてウッドフェンスを設け、大きな植栽スペースを幾つか作り、

高低差を付け変化を持たせることによりフェンスの圧迫感を軽減しています。

雑木を中心に山の雰囲気が感じられるように、やわらかく植栽することを意識して植えられました。

水鉢は英国製のアンティークたらい。

バケツよりも大振りでゆったり水が入ります。

大きな鏡のように樹木を映し、光を反射して潤いと動きをもたらします。

スペースの小さい所ほど、大きくゆったりと観賞ポイントを取った方が空間が生きてくるようです。

今後、水鉢には睡蓮とメダカが入れられることになっています。

写真ではなかなかうまく伝えることができないので残念なのですが、

小さなスペースながらも等身大で自然を感じられる空間になっています。

これから芽吹いてくると印象も良くなり、グッと雰囲気を増してきます。

水の滴る音、小鳥の声、風の音など、庭を通して今まで気付かなかったことが、

五感で感じられるようになります。

潤いのある環境で暮らしを楽しみながら、

笑顔が絶えない空間になったら嬉しく思います。

 

依頼から竣工まで約1年がかりになりながらも、辛抱強くお待ちくださった庭主様。

庭の完成を本当に楽しみにしてくださったお母様。

心より感謝いたします。ありがとうございました。(F)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

春のかおり

世界トップレベルの野菜を揃え、色鮮やかな野菜が並んでいるレストラン農家の台所。

ワクワクする店内には選挙ポスターが飾られており、

こだわりの野菜たちを作った生産者たちの顔が写されています。

農薬や化学肥料に頼らない、持続可能な農業を実践され丹精込めて野菜を育てています。

健康的な土づくりをすればしっかりと根を張り、病気や害虫にも強い丈夫な野菜が育ちます。

安心.安全は当たり前で、その先の美味しさ.美しさも追求されている精鋭達。

すぐには結果のでない農業。地道に土づくりから始め、長年の経験と自分の信じた方向へ向かって

毎年試行錯誤しながら改良して、より良い品質のものへ手掛けていきます。

私たちの仕事と共通する事が多い農業は、技術だけではなく精神的な心構えも含め

いろいろな事を学ぶ事ができ参考になります。

この季節になるとポスターにも写っている中村安幸さんの畑を訪ねます。

お目当ては『東京うど』。

始まりは江戸時代といわれ、東京を代表する伝統野菜をいただきに伺います。

室や半地下で陽の光に当てる事なく育ったウドは、色が白く香りが良いのが特徴です。

暖かく一定な温度に保たれた室の中で、幻想的な姿でうどが育っています。

室の中は春の香りでいっぱいです。

陽に当てていない分、山うどに比べてアクが少なくシャキッとした歯ざわりが楽しめます。

うどを食べないと春が来ないようで、毎年一足早い春の味覚を楽しんでいただいています。

食べ方は工夫しだいで豊富にあるそうです。

私はシンプルに天ぷらやきんぴらでいただくのが好きですが、

はたして今年はどうやって食べるのかな?  楽しみです!!

いつも献身的に畑と向き合い、手間を惜しまず情熱と愛情を野菜に注いでいる中村さん。

『楽な仕事ではないから面白いね〜』という言葉の裏にはいくつもの苦労があると思います。

その苦労を乗り越え愛情たっぷりの野菜を収穫して消費者に、美味しい!

と喜んでもらえた時に苦労が報われます。

すべてはその瞬間の為に。

 

志は同じなのですが、私にはまだまだ修業がたりません。

見習っていく事がたくさんあります。

すぐに結果の出ない仕事だからこそ、今できる事を精一杯取り組み実行していく。

先を見据えて行動していかないといけないと気付かされます。

 

素敵な笑顔で美味しく.美しい野菜をつくり続けている中村さん、

貴重な野菜たちをいつもありがとうございます。

大事に春の香りを味わっていただきたいと思います。(F)