藤倉造園設計事務所

根を回す

 

雑木林の新緑が一番色彩豊かな季節。

こんなにも新芽の色があるものかと思うほど、みどりのグラデーションが美しく、

山に咲く小さな花たちが色彩にアクセントをつけています。

鳥達のさえずりで雑木林は活気づき、生命力あふれる山に身を置くと、

穏やかな気持ちになり、強いエネルギーをもらった気分になります。

斜面地から花を咲かせているヤマブキです。

地味ではありますが、うぐいすが鳴き始める頃には咲き始め、

実も甘くて食べられるウグイスカグラなどが盛りを向かえています。

所沢の現場も、移植が芽吹きの時期と重なりました。

芽吹きの時期の移植は一番水を必要とするため、

根っこを切るとやわらかい新芽はぐったりとしてしまい、弱ってしまいます。

枝振りがよく素晴らしい木でも、突然の移植はできません。

根回しのできている、しっかりと準備してあるものを植え込んでいきます。

『雑木林の中で暮らしているような雰囲気にしてください』との希望でした。

話の中で畑仕事を趣味とされていることがわかりましたので、

庭の面積に対し大きく畑のスペースを確保して、ゆったりと楽しんでもらえるようになっています。

今回は建築の色が黄みがかったクリーム色です。

違和感のないように庭もある程度、色彩や質感を合わせていった結果、

はじめて使用した材料であふれましたが、味わいのある面白い雰囲気を醸し出してきました。

みどりが入ることで調和され、家もグッと引立ちます。

今回は新芽を傷つけることなく植栽を終えることが出来ましたが、気を抜くことはできません。

木の命を預かっているものとして、植物に無理はさせられませんから。

いつでもどんな時でも対応できるように準備を怠ってはならず、植栽から改めて学んだ気分です。

根回し、しっかりとした準備をすることで、はじめて可能になっていくこと。

未来に向かって、今何を準備していくべきか?改めて考えてみようと思います。(F)

残したいもの

代官山の商業施設から、その裏手にひっそりと佇む豊かな緑に囲まれたお屋敷が見えます。

崖線地形を取り入れた約5000㎡の庭の中に残されている住宅は大正期のものです。

かつてはおかかえの庭師が7名いたと伝えられる名家の庭も、

一時は荒れ果てて鬱蒼と陰っていたようです。

2006年から二年間かけて整備され、その際に出た剪定枝葉は

一回目だけでも、2tトラック20台もあったそうです。

そんな整備の後、庭に光と風が入るようになり、

林床に生えてくる植物も変わってきました。

処分することも検討されていたこの空間は、商業施設の建築家や朝倉家当主、地元有志の署名活動で

残され、再生され、今も地域の財産として慕われています。

この日は、箏の生演奏で新緑の季節にふさわしい演目を聞け、お茶も振る舞われました。

現在も各地で、解体の危機に瀕している住宅や庭はたくさんありますが、

こうした形で残していくことができれば、とても多くの人の心が潤うだろうなと感じました。(T)

 

穀雨

染井吉野はすっかり散ってしまいましたが、落葉樹の葉が芽吹き、

日々変化するその姿はとても楽しいものです。

雨が多く、工事が滞ることもありますが、こんな雨が穀物の成長を促しています。

暦も「清明」から「穀雨」へと移ろいました。

武蔵野の特徴的な地形である「はけ」にも、そんな新緑の季節は訪れ、

豊かな湧水が作り出した水面にその影を揺らしています。

この「はけ」沿いには、かつて別荘として使われていた土地が、

庭園やフランス料理店、美術館、洋菓子店などと用途を変え、

今も小金井周辺には楽しめる場所が多く残されています。

これから端午の節句の頃にかけて、ますます葉が開き、

様々な階調の緑の濃淡を堪能できます。

日々、緑に接して仕事ができることに感謝して、

その移ろいを思う存分感じたいと思います。(T)

所沢の庭 進行中

この川は、荒川へ注ぐ支流・柳瀬川のそのまた支流で、

東京都の清瀬市と埼玉県の所沢市を隔てています。

川岸にある桜は揺れる水面に花びらを落とし、

菜の花の黄色との対比がのどかな春を感じさせてくれます。

ここらに残る倉の土壁は、かつて周辺で採掘された身土不二の材料なのでしょうか、

このような色味の壁を幾つか見ることができました。

こんな川の畔の静かな住宅街で、新たな庭作りが進行しています。

庭の輪郭を描いている黄土色の石は、イタリアからやってきたもので、

トスカーナ地方では街全体がこの凝灰岩でできているところもあるようです。

凝灰岩は火山灰が堆積してできた岩石で、日本では大谷石が代表的です。

今回は、とても雰囲気の出せるこんな材料を使いつつも、

これから在来種の木々を植えて自然な感じにまとめ、

風土になるべく寄り添いながら、おしゃれな感じを出して行きます。(T)

共鳴し合う理念

温かな日差しの中で、冷たいけれど柔らかな風が桜を散らし、

その足下では、寒い冬を耐え抜いて春を迎えた草花が、

人知れずひっそりと咲いていて、その儚さからちょっとした悲しみを抱きます。

味噌作りは、「寒仕込み」といって寒い間にやるのが雑菌が繁殖しにくく最適といわれていますが、

毎年、なんだかんだで、桜の開花に焦るかのように、この時期にしてしまいます。

とはいっても、無農薬無化学肥料の大豆・トヨムスメに「寺田本家」の米麹で仕込んだ味噌は、

毎日の食卓には欠かせない美味しさで、速醸された市販の味噌とは比べられません。

美味しいだけでなく、このような醗酵食品は体調管理のためにも絶対必要で、

他のやりたいことを我慢してでも絶対作るようにしています。

ここは、多摩市のIB庭。

そして、こちらは、練馬区のAK庭です。

どちらも、引っかき傷のあるレンガや、でこぼこの石材などの材料を使用し、

その傷があることで壁に層を作り、微妙な陰影を生む効果を狙っています。

そんな光と影が生み出す重層性を、数々の建築で表現したF.L.ライト。

そんなライトの建築は日本で四カ所残っていますが、その中でも「明日館」は身近な存在で、

講演会を聞きに行ったり、コンサートを楽しんだり、散歩の途中でお茶をしに立ち寄ったりと、

ここのところよく訪れています。

ライトは、当時の明治建築が重んじた格式や重厚さをぬぐい去りたかったのではないかと

言われています。上流階級の社交場ではなく、観光客がくつろぎ、市民が一杯のコーヒーや

宴会を楽しむ近代ホテルの時代の到来を旧帝国ホテルは告げました。

自由学園の教育理念には、

「自分で考えることを大切にし、実物に即し、本物に触れ、よく身につく勉強を目指」すとあり、

そのカリキュラムにも農業などが盛り込まれ、

ライトが若い人達を育てた場「タリアセン」の理念とも共通項があります。

建築も庭も、住人の愛情に満たされてはじめて、

建築や庭が「住まい」となることを実感していたライトと自由学園の希望通り、

今も市井の人々に解放されていて、その恩恵にあずかることができます。

庭も建築も、季節や天候、時間帯や光の加減によって、全然違う感じ方をするものですが、

ライトアップされた「明日館」と夜桜の中で、ボサノバを聞きながら飲むビールは最高でした。

ライトは安価な住宅を、それよりも高価な住宅の質に迫るものをいかに供給できるかに苦心し、

そこから生み出されたのが、平均的なアメリカ人のライフスタイルに合わせて設計された

「ユーソニアン・ハウス」です。

ここ「明日館」も予算不足の中建設されたものが文化遺産となっていますが、

ただ単にライトだからすごいという次元を超えて、遺産以上に、

ライトと自由学園の理想が共鳴し合って、今なお息づいているという点に感じ入りました。

そんな高揚した気分をやさしく受け入れて鎮めてくれるのは、

静かに、しかし美しく佇んでいる夜桜です。

在野精神息づく大胆な発想と、そこから産まれた「有機的建築」の灯の絶えない姿を見て、

とても大きく、静かな幸せを噛み締めました。(T)

夜桜

桜が見頃の時期となりました。

今年は遅い遅いと開花を待ち望んでいましたが、

入学式の時期に桜が満開になるのが本来の開花時期で、

この何年かが早すぎた開花をしていたように感じます。

穏やかな陽射しのもと、都内でもようやく満開に近い桜が見られるようになりました。

日中は、現場作業や図面書きに追われ、ゆっくりと桜を見ることが出来ませんでしたが、

夜桜のライトアップをしている自由学園.明日館を訪れました。

照明に照らされた桜は、とても美しい姿で迎えてくれました。

格調高い雰囲気に感動を憶えるこの明日館は、

近代建築の巨匠、フランク.ロイド.ライトとその弟子の遠藤新の設計です。

オーナーである羽仁夫婦の教育理念に深く共感し、設計を快諾したと言われています。

外観は『プレーリースタイル』で屋根は低く、建物は水平線を強調した平屋づくりですが、

中央棟には吹き抜けのホールがあり、大きなガラスが最上部まで設けられた

明るく開放的なデザインになっています。

開放期間中、中央棟の天井にも桜の照明がやさしく映し出されていました。

ホールではミニコンサートも開かれていました。

ゆっくりと心地よい音楽に浸りながら時間が流れていきます。


中央棟ホール、食堂への玄関廊下。廊下の両側には下駄箱、

傘立てやベンチが作り付けとなっています。

照明や収納棚、窓枠や椅子などすべてをライトがデザインしたもの。

遊び心にあふれ、幾何学的な中にもやさしさが感じられます。

ライト設計の帝国ホテルの椅子と似て、六角形を基調とした椅子。

ラワン材を使用し、背もたれは六角型で革張りのシート張られています。

可愛らしい椅子の座り心地は抜群です。

ライトが日本で出会った大谷石。

内部空間と外部空間を大谷石で統一してひとつにつないでいます。

調和を大切に、連なって流動している様子を演出し、

複雑なデザインの調度品が点在している空間は、

芸術性の高さ、全体構成、細部に至るまで、

ライトが悩み、楽しみながら設計をしたことを感じさせます。

建物は使いながら文化価値を保存する『動態保存』のモデルとして運営されています。

守っていくことは様々な障害や苦労があることと思いますが

いつまでも守り継いで未来に伝えていただきたいです。

 

文化財を身近に感じ、今を生きている美しいライトの遺産を肌で感じ、

夜桜とともに幸せなひと時を過ごすことができました。

 

貴重なひと時を与えてくださいました関係者の皆様、どうもありがとうございました。(F)