藤倉造園設計事務所

紫陽花三昧


太陽がいちばん長く出ている夏至を迎えています。

今週は梅雨空で、蒸し暑い日や肌寒い日が交互に続きました。

季節の変わり目で、体調調節が難しい時期でもあります。

じめじめとした煩わしい梅雨ですが、植物にとっては雨の恵みを思う存分吸収でき、

潤いを得て活気づく時期でもあります。


雨は木々や草花を美しく見せてくれます。

じめじめした気分を、気分よく変換してくれる紫陽花。

各地であじさいが見頃になっています。


私が訪れたのは高幡不動尊金剛寺。

300種、7500株の紫陽花がモミジを中心とした雑木山に植えられています。

山紫陽花や西洋紫陽花が中心に色鮮やかに咲き誇っています。

私たちが庭づくりで植える紫陽花は、一、二種類ぐらい。

色々な植物を植えたいと思うので、数もそんなには植えられません。


決して良い条件ではない、北斜面の山に一面に紫陽花が咲いているのを目の当たりにすると、

もっと庭でも紫陽花をいっぱい植えたくなってきました。

庭であじさいが一面に咲き誇っているのを想像するとワクワクしてきます。

あじさいの存在を改めて見直して、もっと活用していきたいと思いました。

最近人気のアナベルやカシワバアジサイなども植えられています。


多くの人々が紫陽花を眺めながら、梅雨のまとわりつく煩わしさから良い気分に変換していきます。

私たちの求める空間でも、さまざまな気候や季節に対応でき、

気持ちが休まる空間にしていかねばなりません。

おかえり!

手入れの時期に突入しています。

だいたい手入れは、初夏と年末のどちらかに分かれますが、

樹木の成長をコントロールしていくには初夏の方が良いようです。

しかし、近年夏の猛暑が続き、

夏前に手を入れた樹木の幹が焼けてしまい一時的に弱ってしまいます。

手入れも慎重に考えて手を入れていかねばなりません。

手入れは庭の環境を整え、林床に光を当て、健康に維持していく為の大切な作業です。

ここI様邸は30年来のお付き合い。

毎年毎年『ただいま』と言いそうなほど、自然な気持ちであたたかく向かえてくれます。

本当にありがたいことです。感謝の気持ちでいっぱいです。

作庭当初、黒土で仕上げた林床も、今では真っ青な苔に覆われ健全な環境が保たれています。

害虫の被害も以前よりもかなり少なくなりました。

害虫が発生しても無農薬の木酢液などで、害虫の活動を弱めていきます。

時間はかかりますが、庭を健康にしていくことが一番なのです。

一時的な処置の農薬はとは違います。

ここ上野原の陶陽庭でもいっさい農薬は使っていません。

虫にかじられている葉もあまりなく、人に悪影響を与える害虫も見たことがありません。

野鳥や益虫と呼ばれる生物たちも多くいるからなのか、良い状態の環境が保たれています。

みどりも青々と本来の姿で。

本来の姿になっていくこととは、健康になる環境づくりが必要なのです。

弱っている樹木ほど病害虫に犯されやすく、そこで農薬に頼ると一時的には良くなりますが、

良い微生物まで殺してしまい悪循環を生み出します。

木々を健康に強くしていくことが肝心なのでしょう。

健康なみどりを見ることは嬉しく、大きな力を貰えます。

小さな下草類(ユキノシタ)も光が適度に当たることで可憐な花を咲かせています。

流れの水が落ちる池の脇には、山紫陽花が綺麗に咲き誇っています。

その時期になるとちゃんと咲いてくれます。

植物の力でリズムを取り戻せます。

池から視線を上に向けるとモリアオガエルの卵が!!!

今年も帰って来てくれました。

健康な環境には生命が宿ってくれます。

健康な環境で豊かな生態系が築けることは素晴らしいことです。

庭の大きさは関係ありません。

小さくても豊かな環境は築けます。

少しでも多くの空間から豊かな環境が生まれることを願い、

実行して行くことが大切なことなのです。

 

そして、モリアオガエルくんおかえりなさい!

楽しみに待っていましたよ。

なかなか姿を現してくれませんが、

今度、一枚モデルになってくれませんか?どうでしょう。

 

 

 

 

 

 

渋川の庭 完成


渋川での庭づくりが完成を迎えました。

門を開けた瞬間から『深山』を意識できるような空間づくり。

毎回思うことですが、庭が仕上がっていくにつれて嬉しさと同時に

『もう終わってしまう』という切なさも感じます。娘を嫁に出す気分なのでしょうか。

このような気持ちが生まれた時ほど、自分自身も納得できていることなのでしょう。


門をくぐり左手に行くと自宅玄関、右手に向かうと陶芸工房(むくり工房)があります。

この玄関と工房をつなぐ外廊下が、この空間では一番の見所になります。

長方形の中庭を一番広く見る事ができ、

近景として大きなアズキナシを植え込んだことにより、さらに空間が広さを増しています。

目隠しなどの制約はありませんでしたが、工房に接続している廊下から

将来大きな釜を出し入れしなければならない、との話がありました。

本当に大きな大きな釜で、大人数人での出し入れとなるそうです。

釜を出し入れするスペースをつくるため、大きなテラスを設けてあります。

広いスペースを確保した事で圧迫感などもなく、しっとりと風のそよぐ空間が生まれました。

そして今回少しだけこだわったのは、粘土。

日々粘土を扱う場所であるからこそ、造園としても粘土を利用してあります。

むくり工房の室内からガラス越しに眺める景色もまた格別です。

陶芸にも数多くの工程があります。確実に妥協なく、

一つひとつ心を込めて作品へと導いていきます。

この何週間か作品づくりに向かっている姿を目の当たりにして来ましたが、

凄い集中力で圧倒されました。その姿を見て私たちも気を引き締めた次第です。

みどりが自然に眼に入り小さな森林浴のできる室内は、

気持ちが安定し、さらに集中できる工房にパワーアップしたと思います。

この工房から新たな作品が生まれてくると思うと嬉しくてなりません。

膨大な手間と愛情から生まれる作品の後押しを、

今後、生命力溢れる木々のみどりが力になってくれることを期待しています。

建築と一体になったこの空間は、家族の憩いの場であるとともに、

鳥や昆虫たちの住処にもなってくれたらいいですね。

日々の暮らしの中で、季節の移ろい、音や匂いなどを

五感で感じとり新たな発見を楽しんでくれると嬉しく思います。

 

竣工まで2年あまり、本当にお待たせして申し訳ありませんでした。

根気よくお待ちいただき、また気持ちよく作業させていただき感謝いたします。

ありがとうございました。今後ともどうぞ宜しくお願い致します。

 

 

 

目に見えぬものこそ

これは渋川の現場で、コンクリートを使わずに水をため庭に沢を出現させるべく

沢底を突き固めているところです。

ここでは、埼玉県の児玉でとれた粘土で底を作っているので、

防水シートとコンクリートを使ってやるよりも、手間がかかります。

それでも、多少水が洩っても、庭に未来の産業廃棄物を残さず、

呼吸のできる地盤を作ることで多様な生物達にも住みやすい地となります。

同時に、この同じ児玉の土を使って土塀も作ります。

これは土塀の粘土のつなぎとするために藁を細かく切っているところです。

その土塀の骨組みと竹小舞をまず作ります。

土塀は三年以上前から試みたい庭の構造物でしたが、

家との調和を考えるとなかなかそのような空間はなく、今回念願の施工する機会をいただきました。

しかし準備は万全で、何度か休みの日に、木組みと土壁の家を作る深田真工房さんや

きらくなたてものやさんの現場へうかがい色々と教わってきました。

この竹小舞もそれを思い出しながら編んでみました。

沢底も土壁も同じ粘土なので、沢底で粘土と藁を裸足になって練り合わせ、

それをそのまま土壁へ、残った粘土は沢底の仕上げとします。

この写真は富山の専門学校からの研修生・A君が撮ってくれました。

とても芯のしっかりしている好青年です。

水につけて醗酵させた藁は、ほのかに良い臭いを放っていますが、

それを足で踏みつけて粘土とよく混ぜます。

そして竹小舞の隙間を埋めるようにしっかりと押し込んでいきます。

有害な化学物質の入っていない自然素材だからこそ、裸足で捏ね、素手で壁に塗り付けて

このような健康的な仕事ができ、健康的な庭を作ることができます。

最後は鏝でしっかりと仕上げます。

混ざり物のない粘土なので、乾燥するにつれ、もちろん割れてきます。

その割れを楽しむのも良し、上から仕上げ塗りをするのも良しと考えています。

自然素材だからこその、時と共に増す風合い、

それがどのような移ろいを見せるのか楽しみでなりません。

そして手前の沢底には、青梅の採石場から持ってきた石を入れ沢っぽさを出します。

粘土のままだとどうしても水が濁ってしまうことに加え、上流のゴツゴツ感を出すためには、

こうした仕上げになります。

苦労して突き固めた粘土は見えなくなってしまいますが、

こうした隠れてしまう目に見えぬものにこそ大切なものが含まれているのかもしれません。

この呼吸のできる沢に、様々な生物が住みついてくれて、そんな空間で庭主様一家が、

心地良い時間を共有してくれることを願っています。

このような機会をいただきどうもありがとうございました。(T)

風景の奥にあるもの

渋川の現場の前を通る列車が登山客や湯治客を運ぶその行く先には、

谷川岳や草津、万座の温泉などがあり、山好きにはその行く先を見るだけでも

心躍るものがあります。

渋川までは、関東平野が広がり景色も退屈なのですが、そこを過ぎると一気に山中へ。

山間の田んぼが空の雲を映し、その間を列車が蛇行し徐々に高度を上げていきます。

渋川で谷川岳へ向かう列車とは袂を分かち、

吾妻線で草津方面へ向かい、

川原湯温泉駅で下車しました。

ここは八ツ場ダムの計画が進行しているところで、

こじんまりした温泉と豊かな山林の間を削って流れる吾妻渓谷があります。

ダム計画で推進派と反対派で村は分裂、

そしてやがてダム底へと沈んでしまうかもしれない悲しさから、

ここは行きたい場所ではなく、でも一度行かなくては行けない場所

という思いが以前からありました。

首都圏の水道用水は減少の一途をたどっており、今はますます水あまりの時代へと入っています。

また利根川の治水にも役立たないことがわかっているこのダムは建設すると災害誘発の

危険性もあります。そして、節電が叫ばれる中「電力不足だからダムは必要」

という誤解もありますが、八ツ場ダムは既存の水力発電量を大幅に減少させるダム事業です。

この時代遅れのダムに投入される公金は9000億円と言われています。

現政権はその最も輝かしい公約であった「コンクリートから人へ」という

スローガンをかなぐり捨ててこの明らかに無駄な事業に再び大金を投じています。

震災後、世の中は少し変わるかと思いましたが、

政策は高速道路や新幹線、港湾の整備、原発の安全確保など

さらなる公共事業の大幅増を打ち出しています。

原発もダムも施主は私たち首都圏の住民です。

私たちの「無関心という名の加担」が一番の原因かもしれません。

そんな、もどかしい思いをも吾妻渓谷のどこまでも美しい森と川は、

やさしく包み込んでくれました。

しかし、ダム関連工事の断片であるコンクリートが目に入る度に、

心はどうしようもないどん底に突き落とされます。

ここにも、

ここにも、、、

若山牧水は「静かなる旅をゆきつつ」の中で、

「私はどうかこの渓谷の林がいつまでもいつまでも

この侘びと深みを湛へて永久に茂っていてくれることを

心から祈るものである。

どうか私と同じ心でこのそう広大でもない森林のために

永久の愛護者となってほしいものである。」と綴っています。

この八ツ場ダムについては、

加藤登紀子さんも世話人を務める「八ツ場あしたの会」のHPで詳しいことがわかります。

この風景の奥にあるものから何を感じるでしょうか。

政治がどうこうではなく、私たち一人一人が変化そのものにならないといけないのかもしれません。

この吾妻側の下流、渋川での庭作りが明日完成しますが、

そこでは、庭にビニールを敷きコンクリートを流し込んで作る昭和の造園手法とは違う、

粘土を突き固めて池底を作り、そこに水をためる空間作りをしました。

その様子は次のブログに書かせていただきます。(T)

季節のかたみ

今日は二十四節気でいうと芒種。

咲き始めたあじさいの花が雨期の間近を告げています。

花が咲いていない時は気付かないのですが、この季節になると至る所で

センダンが存在感を示しています。

フェンスによじ上って花を接写してみました。

香りもとても良く、「栴檀(センダン)は双葉より芳し」とはよく言ったものだなあと思ったら、

この栴檀は実は白檀(ビャクダン)を指すのだと後で知りました。

庭では嫌われ者のドクダミも今が盛りと謳歌しています。

化学農薬を使わない防虫対策として、木酢液に唐辛子とにんにく、

そしてこのドクダミを漬込んだものを作っていて、

お客様の庭でも予防のため、そして発生してしまった虫をころりとは殺しませんが、

徐々に弱らせるため散布させていただいています。

上の写真は、木々と空の雲を映す水面に、笹舟を作ってそこにドクダミを一輪乗せて

浮かべてみたものです。

道すがら八重のものも見かけました。

園路脇に並んでいた義木には、それぞれに我が陣地とばかりにカナヘビが鎮座し、

旺盛に活動している姿が、こういう季節になったのだなあと移ろいを感じます。

道草をしながら時に身を屈めてみると、ここにもそこにも小さな草花が。

素通りせず、こんな藍色ニワゼキショウのような小さな姿もすくいとっていけるよう

感性を常に瑞々しく保っていなくてはと改めて思います。

渋川の現場では、アマガエルくらいの大きさで灰色の蛙が散歩しています。

何カエルというのか調べてみようと思っていますが、

この蛙を植えたばかりのオオカメノキ(ムシカリ)の木に放してみました。

居心地はどうですか?(T)

雰囲気づくり

赤城山と榛名山を見渡せるちょうど真ん中の地、渋川。

澄んだ晴天の日には雪のかぶった武尊山も望めます。

施工初日は短い時間眺めることが出来ましたが、

その後、なかなか澄んだ山の姿を現してくれません。

いつ見られるかな、と想い続けることも楽しみのひとつです!

この庭のオーナーは小学校時代の同級生。

同窓会の時に庭づくりの話を伺ってから2年あまり、

大変お待たせしてしまった現場です。

 

彼女は現在陶芸家として活躍しています。

同じものをつくる人として、黙々と作業して形にしていく姿は本当に刺激をもらいます。

その工房と自宅リビングをつなぐ空間の庭園設計施工。

玄関やリビング、そして工房アトリエからと眺める角度が様々あり、

景色が展開していける空間づくり。

夫婦揃って山や自然が大好き。子供達も当然自然とのふれあいを楽しみにしています。

中庭で森林浴のできる、家族団らんのスペースとなり、

玄関を開けた瞬間から、深山幽谷の雰囲気を醸し出せる空気が流れるようにつくり込んでいます。

作業をしていると汽笛が聞こえてきます。

なんとSLが現場の目の前を走っているのです。ちょっぴり感動。

小学生時代にハマった銀河鉄道999と重なりました。

マニアたちが写真を撮る為に、朝早くから三脚を立てて場所取りをしています。

『テツ』たちに混じり私も写真を撮りに。

カメラ越しではあっという間に通り過ぎてしまいましたが、

迫力は堪能できました。複雑で手間のかかる汽車は電車には無い魅力を秘めています。

テツたちと少し話しましたが、2分後には専門用語が飛び交い話についていけませんでした。

この世界も深いですね。。。

着々と雰囲気づくりを進めています。

品の良い空気が流れるには、まだまだこれからです。

今週はようやく植栽。集中していきます!!