藤倉造園設計事務所

所沢の庭 進行中

この川は、荒川へ注ぐ支流・柳瀬川のそのまた支流で、

東京都の清瀬市と埼玉県の所沢市を隔てています。

川岸にある桜は揺れる水面に花びらを落とし、

菜の花の黄色との対比がのどかな春を感じさせてくれます。

ここらに残る倉の土壁は、かつて周辺で採掘された身土不二の材料なのでしょうか、

このような色味の壁を幾つか見ることができました。

こんな川の畔の静かな住宅街で、新たな庭作りが進行しています。

庭の輪郭を描いている黄土色の石は、イタリアからやってきたもので、

トスカーナ地方では街全体がこの凝灰岩でできているところもあるようです。

凝灰岩は火山灰が堆積してできた岩石で、日本では大谷石が代表的です。

今回は、とても雰囲気の出せるこんな材料を使いつつも、

これから在来種の木々を植えて自然な感じにまとめ、

風土になるべく寄り添いながら、おしゃれな感じを出して行きます。(T)

共鳴し合う理念

温かな日差しの中で、冷たいけれど柔らかな風が桜を散らし、

その足下では、寒い冬を耐え抜いて春を迎えた草花が、

人知れずひっそりと咲いていて、その儚さからちょっとした悲しみを抱きます。

味噌作りは、「寒仕込み」といって寒い間にやるのが雑菌が繁殖しにくく最適といわれていますが、

毎年、なんだかんだで、桜の開花に焦るかのように、この時期にしてしまいます。

とはいっても、無農薬無化学肥料の大豆・トヨムスメに「寺田本家」の米麹で仕込んだ味噌は、

毎日の食卓には欠かせない美味しさで、速醸された市販の味噌とは比べられません。

美味しいだけでなく、このような醗酵食品は体調管理のためにも絶対必要で、

他のやりたいことを我慢してでも絶対作るようにしています。

ここは、多摩市のIB庭。

そして、こちらは、練馬区のAK庭です。

どちらも、引っかき傷のあるレンガや、でこぼこの石材などの材料を使用し、

その傷があることで壁に層を作り、微妙な陰影を生む効果を狙っています。

そんな光と影が生み出す重層性を、数々の建築で表現したF.L.ライト。

そんなライトの建築は日本で四カ所残っていますが、その中でも「明日館」は身近な存在で、

講演会を聞きに行ったり、コンサートを楽しんだり、散歩の途中でお茶をしに立ち寄ったりと、

ここのところよく訪れています。

ライトは、当時の明治建築が重んじた格式や重厚さをぬぐい去りたかったのではないかと

言われています。上流階級の社交場ではなく、観光客がくつろぎ、市民が一杯のコーヒーや

宴会を楽しむ近代ホテルの時代の到来を旧帝国ホテルは告げました。

自由学園の教育理念には、

「自分で考えることを大切にし、実物に即し、本物に触れ、よく身につく勉強を目指」すとあり、

そのカリキュラムにも農業などが盛り込まれ、

ライトが若い人達を育てた場「タリアセン」の理念とも共通項があります。

建築も庭も、住人の愛情に満たされてはじめて、

建築や庭が「住まい」となることを実感していたライトと自由学園の希望通り、

今も市井の人々に解放されていて、その恩恵にあずかることができます。

庭も建築も、季節や天候、時間帯や光の加減によって、全然違う感じ方をするものですが、

ライトアップされた「明日館」と夜桜の中で、ボサノバを聞きながら飲むビールは最高でした。

ライトは安価な住宅を、それよりも高価な住宅の質に迫るものをいかに供給できるかに苦心し、

そこから生み出されたのが、平均的なアメリカ人のライフスタイルに合わせて設計された

「ユーソニアン・ハウス」です。

ここ「明日館」も予算不足の中建設されたものが文化遺産となっていますが、

ただ単にライトだからすごいという次元を超えて、遺産以上に、

ライトと自由学園の理想が共鳴し合って、今なお息づいているという点に感じ入りました。

そんな高揚した気分をやさしく受け入れて鎮めてくれるのは、

静かに、しかし美しく佇んでいる夜桜です。

在野精神息づく大胆な発想と、そこから産まれた「有機的建築」の灯の絶えない姿を見て、

とても大きく、静かな幸せを噛み締めました。(T)

夜桜

桜が見頃の時期となりました。

今年は遅い遅いと開花を待ち望んでいましたが、

入学式の時期に桜が満開になるのが本来の開花時期で、

この何年かが早すぎた開花をしていたように感じます。

穏やかな陽射しのもと、都内でもようやく満開に近い桜が見られるようになりました。

日中は、現場作業や図面書きに追われ、ゆっくりと桜を見ることが出来ませんでしたが、

夜桜のライトアップをしている自由学園.明日館を訪れました。

照明に照らされた桜は、とても美しい姿で迎えてくれました。

格調高い雰囲気に感動を憶えるこの明日館は、

近代建築の巨匠、フランク.ロイド.ライトとその弟子の遠藤新の設計です。

オーナーである羽仁夫婦の教育理念に深く共感し、設計を快諾したと言われています。

外観は『プレーリースタイル』で屋根は低く、建物は水平線を強調した平屋づくりですが、

中央棟には吹き抜けのホールがあり、大きなガラスが最上部まで設けられた

明るく開放的なデザインになっています。

開放期間中、中央棟の天井にも桜の照明がやさしく映し出されていました。

ホールではミニコンサートも開かれていました。

ゆっくりと心地よい音楽に浸りながら時間が流れていきます。


中央棟ホール、食堂への玄関廊下。廊下の両側には下駄箱、

傘立てやベンチが作り付けとなっています。

照明や収納棚、窓枠や椅子などすべてをライトがデザインしたもの。

遊び心にあふれ、幾何学的な中にもやさしさが感じられます。

ライト設計の帝国ホテルの椅子と似て、六角形を基調とした椅子。

ラワン材を使用し、背もたれは六角型で革張りのシート張られています。

可愛らしい椅子の座り心地は抜群です。

ライトが日本で出会った大谷石。

内部空間と外部空間を大谷石で統一してひとつにつないでいます。

調和を大切に、連なって流動している様子を演出し、

複雑なデザインの調度品が点在している空間は、

芸術性の高さ、全体構成、細部に至るまで、

ライトが悩み、楽しみながら設計をしたことを感じさせます。

建物は使いながら文化価値を保存する『動態保存』のモデルとして運営されています。

守っていくことは様々な障害や苦労があることと思いますが

いつまでも守り継いで未来に伝えていただきたいです。

 

文化財を身近に感じ、今を生きている美しいライトの遺産を肌で感じ、

夜桜とともに幸せなひと時を過ごすことができました。

 

貴重なひと時を与えてくださいました関係者の皆様、どうもありがとうございました。(F)

 

 

 

 

 

 

 

つながり

明治21年、英国人宣教師、A.Cショーが別荘を建てたことから、

その歴史が幕を開けた避暑地.軽井沢。

古き良き避暑地の面影を残す旧軽井沢は、美術館やホテル、

教会といった西洋文化の薫る名所が数多く点在しています。

広大な森の中の澄んだ空気の中にひっそりと別荘が建ち並んでいます。

ゆっくりと歩き散策するには最高なロケーション。

何とも言えない懐かしい風情が漂っています。

縁あって この素晴らしい環境の中での造園設計依頼を受けることになりました。

大きな樹木が立ち並び、どこまでも続いていく森。

建物と森とが自然に馴染み、違和感なく風景としてつながり、

全身で生命の力を感じることのできる庭づくりです。

建築〜庭. 庭〜森。

人工から自然への橋渡しとして、大きなウェイトを占めている庭。

改めて庭の重要性を感じます。

みどり豊かに潤いのある森と人が上手に共存出来る空間を目指して。

都内ではなかなか出会えないロケーションを最大限に活かし、スケール感を大きく

森とつながることを意識して考えていきたいと思います。(F)

 

 

 

春眠暁を覚えず

「春の眠りはここちよく、いつ夜が明けたか気がつかない。」

「あちらでもこちらでも、鳥のさえずりが聞こえる。」

「昨夜は雨まじりの風が吹いていた。」

「花がいったいどれくらい散っただろうか。」

 

二日続いた雨も上がり、一段と温かさをまして、

こんな孟浩然の「春暁」の漢詩がぴったりの日和となりました。

春爛漫の小石川植物園からは、旧東京医学館本館がきらきらと望めます。

こちらは東京国立博物館本館です。

ジョサイア・コンドル設計の旧館は、関東大震災で惜しくも倒壊してしまい、

その後に建てられたこの建物は、帝冠様式と呼ばれ、洋風のコンクリート造建築物に

和風の塔や破風を配されています。

今は、その裏の庭園もちょうど解放されていて、

池の周りに配された五棟の茶室も見ることができます。

寛永寺本坊跡に作られたこの博物館は、本館、表慶館、法隆寺宝物館、平成館からなり、

中央の広場には、こんな立派なユリノキが伸び伸びと枝を思う存分空へと広げています。

この平成館で、いま行われているのが、

「ボストン美術館 日本美術の至宝 特別展」。

楽しみにしていました。

博物館や美術館には、それぞれキュレーターや学芸員の好みや傾向があり、

権威的な美術館でありながら、何度行っても心に響かないところもあれば、

ここのように、「阿修羅展」「細川家の至宝展」「空海と密教美術展」など

行く度に期待以上の感動と満足感を得られるところもあって、

自分の美意識や価値観から共感できる美術館は人それぞれです。

今回の一番の目玉は、奇才と呼ばれる曾我蕭白の「雲龍図」。

自由奔放で躍動感があって、力強くドラマチックな水墨画には、

ものすごいエネルギーが迸っていました。

他に、狩野永納の「四季花鳥図屏風」では、四季折々の風景の中で、

桜から紅葉までの変遷に、様々な鳥たちが遊び、

林床にも、何とも言えない濃いブルーの水辺の脇で、こと細かく四季の草花が描かれ、

植木に携わる職業を選んだ心をくすぐります。

念願の伊藤若冲の絵にも思いがけず出会え、日本の美の奥深さを再認識すると共に、

明治維新後の欧米化に始まり、戦後より顕著になって今まだ続く、

グローバリゼーションの波の中で失い続けているものの大きさを感じます。

落葉樹の中でも芽吹きの早い柳の新緑は、

なんともいえず美しく、その影を法隆寺宝物館前の水面に落としていました。(T)

早春に賦す

 

ここ数日の暖かな天候に恵まれて、あちらこちらで春を告げる花たちが開花を始めています。

早春に咲く花は比較的、黄色の花をつける植物が多くあります。

マンサクやサンシュユ、アブラチャンなど鮮やかな可愛い黄色の花をつけます。

春の雑木の花は黄色から始まり、白色から紫色へと移っていき夏に向かっていくようです。

菜の花も綺麗に群れをなして咲いていました。

カタクリも雑木林の足元から顔を出しはじめました。

落ち葉にまぎれ、見過ごしてしまいそうな小さなカタクリの花。

これから群れをなして咲いてくると雑木林がにぎやかになってきます。

蜂や蟻などの虫たちの動きも活発になってくる頃です。


一雨ごとに暖かさを増し虫達も活発になる春の長雨に泣かされていた練馬の現場も、

今週に入り天候が安定してようやく竣工にたどり着きました。

二世帯住宅の中庭がデッキで繋がるプライベートな空間です。

境界のブロックが低く、視線が気になり部屋の窓のブラインドを開けることができませんでした。

そこで目隠しとしてウッドフェンスを設け、大きな植栽スペースを幾つか作り、

高低差を付け変化を持たせることによりフェンスの圧迫感を軽減しています。

雑木を中心に山の雰囲気が感じられるように、やわらかく植栽することを意識して植えられました。

水鉢は英国製のアンティークたらい。

バケツよりも大振りでゆったり水が入ります。

大きな鏡のように樹木を映し、光を反射して潤いと動きをもたらします。

スペースの小さい所ほど、大きくゆったりと観賞ポイントを取った方が空間が生きてくるようです。

今後、水鉢には睡蓮とメダカが入れられることになっています。

写真ではなかなかうまく伝えることができないので残念なのですが、

小さなスペースながらも等身大で自然を感じられる空間になっています。

これから芽吹いてくると印象も良くなり、グッと雰囲気を増してきます。

水の滴る音、小鳥の声、風の音など、庭を通して今まで気付かなかったことが、

五感で感じられるようになります。

潤いのある環境で暮らしを楽しみながら、

笑顔が絶えない空間になったら嬉しく思います。

 

依頼から竣工まで約1年がかりになりながらも、辛抱強くお待ちくださった庭主様。

庭の完成を本当に楽しみにしてくださったお母様。

心より感謝いたします。ありがとうございました。(F)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

春のかおり

世界トップレベルの野菜を揃え、色鮮やかな野菜が並んでいるレストラン農家の台所。

ワクワクする店内には選挙ポスターが飾られており、

こだわりの野菜たちを作った生産者たちの顔が写されています。

農薬や化学肥料に頼らない、持続可能な農業を実践され丹精込めて野菜を育てています。

健康的な土づくりをすればしっかりと根を張り、病気や害虫にも強い丈夫な野菜が育ちます。

安心.安全は当たり前で、その先の美味しさ.美しさも追求されている精鋭達。

すぐには結果のでない農業。地道に土づくりから始め、長年の経験と自分の信じた方向へ向かって

毎年試行錯誤しながら改良して、より良い品質のものへ手掛けていきます。

私たちの仕事と共通する事が多い農業は、技術だけではなく精神的な心構えも含め

いろいろな事を学ぶ事ができ参考になります。

この季節になるとポスターにも写っている中村安幸さんの畑を訪ねます。

お目当ては『東京うど』。

始まりは江戸時代といわれ、東京を代表する伝統野菜をいただきに伺います。

室や半地下で陽の光に当てる事なく育ったウドは、色が白く香りが良いのが特徴です。

暖かく一定な温度に保たれた室の中で、幻想的な姿でうどが育っています。

室の中は春の香りでいっぱいです。

陽に当てていない分、山うどに比べてアクが少なくシャキッとした歯ざわりが楽しめます。

うどを食べないと春が来ないようで、毎年一足早い春の味覚を楽しんでいただいています。

食べ方は工夫しだいで豊富にあるそうです。

私はシンプルに天ぷらやきんぴらでいただくのが好きですが、

はたして今年はどうやって食べるのかな?  楽しみです!!

いつも献身的に畑と向き合い、手間を惜しまず情熱と愛情を野菜に注いでいる中村さん。

『楽な仕事ではないから面白いね〜』という言葉の裏にはいくつもの苦労があると思います。

その苦労を乗り越え愛情たっぷりの野菜を収穫して消費者に、美味しい!

と喜んでもらえた時に苦労が報われます。

すべてはその瞬間の為に。

 

志は同じなのですが、私にはまだまだ修業がたりません。

見習っていく事がたくさんあります。

すぐに結果の出ない仕事だからこそ、今できる事を精一杯取り組み実行していく。

先を見据えて行動していかないといけないと気付かされます。

 

素敵な笑顔で美味しく.美しい野菜をつくり続けている中村さん、

貴重な野菜たちをいつもありがとうございます。

大事に春の香りを味わっていただきたいと思います。(F)

 

 

 

 

雪椿

雨水から啓蟄へと向かう候ですが、

暦通りには事は進まず本日の雪となりました。

庭作りの予定は詰まっていて、長らく待っていただいているお客様には、

ご迷惑をおかけしてしまいますが、自然には逆らえず、

全ては必然と雪の日には雪の日にしかできない過ごし方をしております。

まだまだ、とめどもなく天から雪が降りてくるさなかでの雪中散策。

雪吊りも連なると一層の趣があります。

雪には「六花」「天花」という別名がある通り、先人たちは、

冬空から舞い降りてくる雪を花びらに見立てて、

寒い季節の中にも「花」を見出しながら、あと少しで到来する春に思いを募らせたのでしょうか。

降りしきる雪の中で見る三重塔はいつも以上に風情があります。

これは雪を冠った寿老人の姿ですが、

中国の老子が天に昇って仙人になった姿と言われています。

「道(タオ)」の思想こそ、行き詰まった現代に一石を投じる考え方だと思うのですが、

寿老人は、そんな「自然との調和」を司る七福神のお一人です。

赤い椿には、「気取らない」「見栄を張らない」「慎み深い」「控えめな」などの花言葉の他に、

「自然の美徳」というものがあります。

こんな雪椿にあやかって、日々、等身大で自然体で、自然との調和を何より大切に、

生きていきたいものです。(T)

練馬の庭 始動

 

練馬区関町の庭がスタート致しました。

3年前に家を二世帯住宅に建て替えた、庭主様とお母様の部屋を繋ぐ中庭です。

プライベートな空間を居心地よくして、家族団らんのひと時を

緑豊かな空間で過ごせる庭にしていく予定です。


今回の素材は大谷石、レンガ、枕木、、御影石とすべてアンティークの材料でまとめます。

古材の質感は味わい深く、その素材自体に力があります。

一つひとつの個性が強いためバランスを取るのに苦労しますが、そこがおもしろい所のひとつです。

決して広くはないスペースですが、広さを感じる事ができるよう無駄なく、

与えられた空間を最大限有効活用していきます。

日照時間は今時分で3、4時間ぐらい。

お昼を過ぎると陽は差し込む事はなく、比較的暗い印象を受けます。

その印象を庭として上手に活用していき、雰囲気をもり立て、全体を馴染ませていきます。

庭から会話が弾み、ご家族の笑顔があふれるような雰囲気づくりの始まりです。(F)

 

色気


打ち合せの為、神奈川県の葉山を訪れました。

久しぶりの海、朝日を見ようと朝早く出てきましたが、

厚い雲に覆われて見る事が出来ませんでした。残念。

葉山の現場は、住宅分譲地で長方形の土地ですが、オーナーの希望で建築を斜めに振ってあります。

庭としておもしろい感じになるのではないか、と楽しみな案件です。

良い提案が出来る様、イメージを膨らましていきたいと思います。

ここ数日、暖かい日が続いているので、春の花たちもようやく顔を出してきました。

スイセンやマンサク、梅やユキヤナギが綺麗に咲き始めています。

すぐそこまで春が来ている事を、花によって教えてもらいました。

植物の健気な姿で、私たちはリズムを取り戻す事ができます。

打ち合せ後、鎌倉に立ち寄りました。

鎌倉には幾つもの切通しがありますが、上の写真は釈迦堂切通しです。

このような洞窟的な切り通しは珍しく、なかなかの迫力があります。

荒々しく削られた壁。高さ約8mほどある壁面の上部は、

石質や削りだされた時代も古く、風化が著しい印象を受けます。

下部はやぐらなどが掘られ、供養壇や石塔類が設けられております。

石ノミの跡も残っている感じは生々しく、人と自然と長い年月でつくられた、

力のある切り通しです。

切り通しから削りだされた石は鎌倉石と呼ばれ、凝灰質の粗粒砂岩です。

柔らかく、加工・細工のしやすい鎌倉石は、用途も多く、さまざまな物に使われてきました。

耐火性も強く、蔵や鍛冶屋の炉にもなっていたそうです。

北鎌倉の浄智寺は鎌倉石をつかった美しい石段がありました。

長い時間をかけて、人の足と風化によって削られた鎌倉石は 丸びを帯び、

苔も乗り、渋い味わいを醸し出しだしています。

先人たちの積み上げた石段は美しい色気を漂わせていました。

尾根が複雑に入り組んだ鎌倉の地形を利用して、

山と山の谷間に鎌倉ならではの庭園文化が築かれていったのでしょう。

庭のちょっとした所に、さりげなく、ぽつんとある五輪塔も美しさを感じます。

材木座で4年前に手掛けさせていただいたお庭は、庭主様の愛情で格段に雰囲気をましています。

林床も丁寧に清められ、苔も乗りはじめました。

最近チャドクガの発生が多く、敬遠されてしまう椿ですが、何種類か植っています。

庭をよく観察して愛情をかけているので、初期の段階で駆除でき、

虫に食べられる事なく綺麗な花をつけています。

椿はとても良い樹木です。愛情のかけかた次第なんですね。

室礼を大切にして、季節を重んじて接している事で色々なものに意識がいくのかもしれません。

写真のアプローチも苔と同化してくると、ぐっと色気をましてくると思います。

色気….。

簡単な事ではありません。生涯の課題でしょう。

時と共に色気を醸し出しながら美しくなる空間、

常に意識はしていますが、なかなか難しいようです。

色気を感じられるようになり、歳と共に色気の漂う庭づくりをしていきたいものです。(F)