藤倉造園設計事務所

季節のグラデーション

今日は、ウッドフェンスの材木の塗装です。

当社では、以前は使っていた有機溶剤の使用をやめました。

自然塗料には、外部空間でも使える柿渋を始め、様々なものが出てきておりますが、

今回はお客様が用意してくれたドイツ製のこの塗料を使います。

スタンドオイルというものを主成分としていて、能登半島の漆職人も

好んで使うというほど、食器に使っても大丈夫なものです。

有機溶剤を使っていた頃は、目がしばしばしたり、頭が痛くなったりすることもありましたが、

この塗料は、アロマオイルを焚いているかのように、良い香りで気持ちよく作業ができました。

作業は、近所の植木畑を借りて行いました。

秋を感じさせる青空を背景に、ムクゲが輝いていました。

二十四節気では、明日から「白露」です。

本格的に、秋が始まるということのようです。

畑では、ハナアブが、去り行く夏を惜しむかのように、花粉まみれになっていたり、

シオカラトンボや、

赤とんぼも、飛び交っていました。

こうして、エゴの実も膨らんできました。

今日、塗るべきものを全て塗り終え一服していると、さわやかな風が吹き抜けていきました。

現代は、四季というように、一年を四分して、

または、初夏や晩夏のようにもう少し細かく捉えたりしていますが、

ほんの少し前までは、二十四節気のように、さらに細かく季節を感じていたようです。

私達は幸いにも、そんな風を敏感に感じられる職業です。

繊細な感受性を呼び覚まして、ちょっとした季節のグラデーションを

感じ分けていけたら良いなと思います。

一年に一度しか巡り会うことのできない、そんな一瞬、一瞬を、

大切に、大切に慈しんでいきたいものです。(T)

武蔵野市吉祥寺の庭 始動

今日から吉祥寺の庭に取りかかります。

まずは、目隠しでもありながら、意匠的にも楽しめるウッドフェンスを作ります。

そのため、朝一で市場に材木を買いにいきました。

空気がカラッとしていて、空を見上げると、もう秋の雲がありました。

現場へ行く途中、スタジオジブリの「草屋」を通ります。

在来種の雑草と野芝が屋根一面を覆っている草屋根がきれいで、

この道を通るのは楽しみです。

ここ吉祥寺のお客様も、工事開始までお待たせしてしまうことになったので、

その間の仮設フェンスが作ってあります。

既製品のオレンジ色のフェンスはよく巷で見かけますが、

余った材木と剪定枝だけで無造作に作ったフェンスです。

作った当初は、まだ剪定枝に葉っぱもついていて、

また違った味わいがありました。

何でもないものですが、一時をしのぐものとして、

あるものだけで作ったこのフェンスも結構気に入っています。

この空間に、これから息を吹き込んでいきます。

どうぞ、よろしくお願い致します。(T)

 

 

 

 

積み重ねること

お茶を娘と一緒に習っています。

小学校高学年の頃にお菓子(和菓子)につられて付いてくることになった娘も、中三になり最近はお稽古を楽しんでいるようです。

 

茶の湯は知れば知るほど奥が深く、あらゆる美の要素が含まれています。

露地や茶室の雰囲気、空気感、亭主の心遣いや、もてなす心を肌で感じながら一服のお茶のために空気が流れて行きます。

先生や先輩達の所作振る舞いが、すばらしく美しいのです。自然に無駄のない動作を心がけ

稽古しているのですが、なかなか難しいです。

最近、意識しているところが指先であったり、肘の使い方で、「柔らかい動作」です。

普段意識しないところを意識することはとても新鮮なのですが、ひとつ上手くいくと当たり前のことが駄目になり、

流れるような、人が見て美しいと思われる姿とはほど遠いですね。

この掛け軸は『秋来たりて、草に声あり』と言う書です。

清らかな空間で、耳を澄まし虫の鳴き声が聞こえてくると、夏の終わりをしみじみと感じます。

掛け軸や生け花には季節感があり、茶道具との取り合わせ方で亭主の好みやセンスが表れます。

今日のお手前ではうまく池が出来ました。これがなかなか難しいのです。

ちょっと嬉しいできごとです。

 

まだまだ人をもてなすレベルまで来ていませんが、

日本人の美学が詰まっている茶の湯の精神を、少しでもものに出来るよう積み重ねていくことによって、

今とは違う角度からの物の見方、美の楽しみ方、雰囲気などの眼に見えないものを感じ取れる力が身に付けばと思っております。

今後も楽しみながら茶の湯を学んでいきます。(F)

 

渋谷区広尾の庭 再訪

渋谷区広尾のこの現場は、付近に各国大使館や山種美術館などもあって、

とても閑静で落ち着いた住宅街にあります。

昨年の春の完成から一年半の時を経て、剪定と追加の植栽にうかがいました。

お客様が、限られた土地をとても有効に活用されていて、獅子唐やピーマン、茄子なども

一夏楽しめたようです。

これは、施工前の写真です。

リビングは二階にあり、そこから張り出したデッキの下が庭のスペースです。

デッキの真下には、三和土のテラスを作り、その周囲を植栽スペースとしました。

三和土の土は現場で採取されたものも使います。

施工時は、ちょうど桜の時期で、

その花びらと共に、木漏れ日が三和土の上に影を落として揺れていました。

その頃は、土留めの石もまだ庭に馴染んでおらず浮き立っていましたが、

こうして、一年半の時が流れ、しっくりと落ち着いてきました。

ブランコは、ご主人様が二人のお子さんのために据え付けたものです。

庭には、ブルーベリーやジューンベリーがあり、収穫を楽しめます。

施工時には、まだ照れてはにかんでいたお嬢さんが、

五歳になり、「ブルーベリー、酸っぱくて美味しいね。赤いのはまだ駄目だよね。」

などと、とても楽しそうに話しかけてきてくれたのが、本当に嬉しかったです。

庭には、そこに住まわれているお客様の暮らしがあり、

お子様が成長していくように、庭も育っていきます。

どうぞ、これからも、よろしくお願い致します。(T)

大きな木の下で

今日は渋谷区広尾の現場だったので、昼休みに近くにある

「レストラン シェ・モルチェ」の庭を見に行きました。

庭は、一度見ただけでは分からないもののようです。季節や天候、時間や光の射し加減、

風向きなどによって、違った感じ方をします。

ここへ行くのは三度目ですが、過去二回の訪問では、鬱蒼としていて、

蚊がとても多い印象がありました。今日は、お店へ入って大窓から庭を見た瞬間、

ドーンと心に響いてくるものがあり、時々雲間から太陽が顔を出し、葉と葉の間から何条かの

光線が射しているのがとても神秘的でした。庭へ出ても台風の影響か、蚊がほとんどいなくて、

小一時間くらい至福のお昼休みを過ごさせていただきました。

林床は白いニチニチソウで敷き詰められ、周囲を縁取るように少し赤色のものも混ぜてありました。

ここは、月一回の手入れをして、定期的に花を植え替えているようです。

木は、モミジが主体で、既存のケヤキの大木もあり、常緑はツバキやモチがありました。

倒木は、自然な雰囲気を出すように敢えて入れたもののようで、そこからフジなどのツタ類が

上へと登っていくのも、ここではとても趣き深く感じられました。

隣には、大きなマンションがあるのですが、木々がそれを覆い隠し、

都心にいることを全く感じさせません。

大きな木の下を、このように花で彩るのは、中島健さんの真骨頂だと思います。

ここは、白い楚々として他愛ない花がとても心を和ませますが、

雑木林には、派手な花々が整列して並んでいると違和感を覚えるかもしれません。

これは、今年の4月に小石川植物園で撮影したものです。

半自然空間でありながら、林床に咲く野の花が可憐で、

中島健さんの作品を彷彿とさせたのを覚えています。

私達が主に扱う雑木には、どんな野の花を、どのように添えていけば、

さりげなく心を打つのか、これからも研究すべき課題は山積みです。(T)

旅立ち

この写真は、このホームページのトップページに使っている写真です。

この白い泡は何だろう、または、カマキリの卵かなと思った方もいるようです。

実は、これは山梨県上野原市・陶陽庭の池上の枝に産みつけられた

モリアオガエルの卵です。

日本には約35種類の蛙がいて、そのほとんどは水辺の近くで暮らします。

しかし、このモリアオガエルは、水辺から離れた林や、深い森の木の上で暮らします。

そのため指先には吸盤がついているのが特徴で、木から滑り落ちないような形態をしています。

ここ陶陽庭で卵が確認できるようになったのは、去年の五月からです。

そして今年も、こうして戻ってきてくれました。

樹上に佇んでいる親蛙の姿も目撃したのですが、あいにくカメラを持っていない時で

まだ写真に収められていません。

池の上に張り出している枝の上で、約三時間ほどかけて産卵は行われます。

この樹上で卵が孵化し、産卵後約十日ほどでおたまじゃくしとなり、

池へとポトン、ポトンと落ちていきます。

泡のかたまりは五個ほどあったので、この池には、数千匹ほどのおたまじゃくしが

いたでしょうか。

手が出て足が出るのを陶陽庭へ行く度に、いつかいつかと観察していました。

そして昨日ついに手足の出た子蛙を発見しました。

しっぽはまだ長いままですが、呼吸も既に、えら呼吸から肺呼吸へと変わっているはずです。

これから陸に上がり数日は、何も食べず木の葉の上や草むらで、

じっとうずくまっているようですが、やがて山へと移っていきます。

食べ物はアオガエルと同じくアブやハエ、蚊、蛾などの小さな昆虫で、

天敵は蛇や鳥のようです。

あと数日でこの池からは旅立ちますが、陶陽庭とその周辺の森で暮らしていくのでしょう。

とはいえ、周辺はもともとあった落葉広葉樹林が伐採され

植林された杉などの針葉樹林がほとんどです。

よりよい環境を求めて、コナラ、ソロ、モミジの樹冠の下に流れる小川が池へと注ぐ

この陶陽庭へ辿り着いたのかもしれません。

人間様の評価ももちろんありがたいのですが、嘘偽りのない自然界の中でも

とても繊細なモリアオガエル君に、認められたことがこの上なく嬉しい日々です。

モリアオガエルは基本的には、二〜三年後生まれ育ったふるさとの池に戻ってくる習性があります。

その時には、モリアオガエルの視点でも空間がとても心地良いものであるようにし、

親となって戻ってきたモリアオガエルを迎えたいと思います。(T)

 

幸せの物差し

剪定枝葉がたまったので、堆肥化するために山梨県上野原市の陶陽庭に持って行きました。

ここへ来るとやることが山ほどあります。

ブルーベリーの収穫もその一つ。

木は50本ほどあり、毎日滞在しているお盆休みには毎朝収穫しますが、

少ない時で一時間、多い時は二時間ほどもかかります。

完熟した実をとればとるほど、赤い実が次々に紫に熟していきます。

これが7月から9月前半まで続くので、結構な収穫量になります。

今日は、途中かなり激しい雨に降られながらも、一時間ほどかけてこのくらいです。

赤い実がまだまだあるので、しばらく楽しみは続きます。

そして、ホームページの今後の方向性を決めるため、

モチドメデザイン事務所(http://www.otsukimi.net/)の持留和也さん

に八ヶ岳から来ていただきました。

このホームページは、藤倉造園設計事務所と持留さんの間で、

試行錯誤を重ねながら、約一年間かけて練り上げてきました。

当初から、提案していただいたデザインがとても魅力的でわくわくし、

大枠ができディティールが詰まってくる度に、一時も早く皆さんに見ていただきたく

楽しみにしていましたが、先の8月6日にこうしてリニューアルすることができました。

持留さん、本当にありがとうございます!

私達が庭づくりで目指していることと同じように、ホームページも完成してから、

時を経て、より良くなっていくものにしたいと思っています。

持留さんは、とても個性的で魅力的な方のホームページを多数つくられていますが、

特に伝統建築の世界に造詣が深く、

「職人がつくる木の家ネット(http://kino-ie.net/)」では事務局として運営にも関わっています。

そして、八ヶ岳山麓の地には、畑と田んぼも持っており、80%は自給されているそうです。

そんな畑から、無農薬で育てた完熟トマトのトマトピューレをお土産に持ってきていただきました。

毎年9月に瓶詰めすることが恒例になっていて、これはサンマルツァーノという品種だそうです。

大地に根差し、これまでの幸せの形とは違う物差しで、

日々の暮らしを大切に営んでいる持留さんの暮らしは私達の目標です。

今後も、どうぞ、よろしくお願い致します。(T)

 

飯田十基の雑木の庭

「雑木の庭の創始者」である近代庭園の巨匠、飯田十基氏の自邸です。

東京都心にありながら、足を踏み入れると自然の雰囲気、空気感が漂っていて、ほっこりと優しい気持ちに包まれます。

作り手の腕の良さを見せないさりげなさ。ずっと眺めていて飽きのこない庭。

近代造園史上、重要な意味を持つこの『旧飯田十基邸の庭』もまた、消滅という定めから逃れることは出来ませんでした。

8月上旬、最後の見学会が開かれました。閑静な住宅街のため、人数を絞っての公開となりました。

初めて飯田邸を訪れたのは10年ぐらい前、石正園代表、平井孝幸氏に連れて行っていただいたのが最初です。

流れが庭を横断しているのですが、実に巧みな流れで、少量の水でこんなに表現出来る凄さに驚のを記憶しています。

今回で4回見せていただきましたが、見るだびに新たな発見があります。

植栽も雑木ばかりではなく、梅やハナミズキ、カルミヤなど里木も植わっています。

本来ならば雰囲気を出していくために山木でまとめ、里木は外していきますが、

名人であると関係ないですね。

結局、何の樹木が植えてあるではなく、空間性や方向性、間の取り方や強弱、高低差など、

素朴な材料でメリハリのある仕事をすることで、流れる空気は違ってくるのだと感じております。

形あるものはいずれ壊れ、滅びてしまい残念ですが、幻の庭園を見て感じることが出来たことは

幸せなことであり、少しでもその精神を受け継いでいき、次の世代に伝えていきたいと思っています。(F)

時と共に

記録的猛暑となった2010年夏、明星大学青梅キャンパスにて土塀講習会が開かれました。

安諸庭園・安諸定男氏の指導のもと全国から駆けつけた庭師は総勢約120名。

あれから1年、その後の土塀を見てきました。

拡大時のタイトル

荒木田土は亀甲形にひび割れカチカチに固まっていました。

何カ所か軽く崩れていて、下地の竹小舞が出ていましたが、それが何とも美しいです。

今改めて見てみると、腰積みのラフな感じと土塀の高低や長さのバランスがよく、

時間的なこともあって仕上げ塗りまでは出来ませんでしたが、

それがかえってこの空間には合っていると感じました。

現在土塀の表側には榊原八朗さん(明星大学教授)指導のもと、学生たちが庭を作っています。

つくばい流れの形式で、池に水が流れ落ちる計画のようです。

植栽も雑木を中心にしてあり、周りの山と同化して土塀も際立っていました。

土塀は造園のひとつのアイテムですが、植栽や水の動きなど様々なものを、相性の良く組合わせることによって、

空間性が生まれ良い空気が流れていくのでしょう。

この土塀は、時と共に風合いの魅力を増すものだと思います。

私達も、老いることに抗うのではなく、美しく歳を重ねていけたら良いなと思います。

スケール感

昨晩、『大北望作品刊行記念特別講演会』が開かれました。

日本を代表する造園家、姫路の大北美松園・大北さんの作品集が発刊されたからです。

写真家、信原修氏が撮りためていた写真を中心に、作品解説、作品図面集、作品論など、

大北さんのこれまでの集大成が凝縮されており、実に見ごたえのある一冊になっています。

講演会では、日々苦労し格闘して重ねてきた40年数年の経験を7つの格言とも言える言葉で庭のスライドと共に、庭を創る者にとってなくてはならない精神的なこと、技術的なことだけではなく、庭との向き合い方などを、生きた言葉で熱く語っていただきました。

住宅庭園規模の1:50や1:30のスケールはある程度経験を積んでいけば誰でもできるといいます。1:300など、何千坪何万坪のスケールになると図面を読み取りすべての絵が描けていて、それを実行する力を持ちながら臨まないと納得はしてもらえないのかもしれません。

庭は現場合わせの箇所が多々あるため、設計変更がつきものです。ゼネコンの設計者と同じか、それ以上の立場で議論を重ね納得させていくには、相当な苦労やストレスがあり孤独であったと思います。今までの経験と日々の努力で裏付けた自信がなければ負けてしまうでしょう。

大北さんには負けてしまわない自信と、自分を追い込み常に新しい物に挑戦すること、そして何よりもお客様に喜んでいただこうとする遊び心が庭に溢れています。

すべてが、良い空間になり、すばらしい雰囲気に包まれるように格闘していました。

講演最後にポツリと言った「もっと異端児になりたい」という言葉が印象に残りました。

これからもすばらしい空間を作り続けて、若手の目標でいてください。

この度は、作品集発刊、おめでとうございます。(F)