藤倉造園設計事務所

飯田十基の雑木の庭

「雑木の庭の創始者」である近代庭園の巨匠、飯田十基氏の自邸です。

東京都心にありながら、足を踏み入れると自然の雰囲気、空気感が漂っていて、ほっこりと優しい気持ちに包まれます。

作り手の腕の良さを見せないさりげなさ。ずっと眺めていて飽きのこない庭。

近代造園史上、重要な意味を持つこの『旧飯田十基邸の庭』もまた、消滅という定めから逃れることは出来ませんでした。

8月上旬、最後の見学会が開かれました。閑静な住宅街のため、人数を絞っての公開となりました。

初めて飯田邸を訪れたのは10年ぐらい前、石正園代表、平井孝幸氏に連れて行っていただいたのが最初です。

流れが庭を横断しているのですが、実に巧みな流れで、少量の水でこんなに表現出来る凄さに驚のを記憶しています。

今回で4回見せていただきましたが、見るだびに新たな発見があります。

植栽も雑木ばかりではなく、梅やハナミズキ、カルミヤなど里木も植わっています。

本来ならば雰囲気を出していくために山木でまとめ、里木は外していきますが、

名人であると関係ないですね。

結局、何の樹木が植えてあるではなく、空間性や方向性、間の取り方や強弱、高低差など、

素朴な材料でメリハリのある仕事をすることで、流れる空気は違ってくるのだと感じております。

形あるものはいずれ壊れ、滅びてしまい残念ですが、幻の庭園を見て感じることが出来たことは

幸せなことであり、少しでもその精神を受け継いでいき、次の世代に伝えていきたいと思っています。(F)

時と共に

記録的猛暑となった2010年夏、明星大学青梅キャンパスにて土塀講習会が開かれました。

安諸庭園・安諸定男氏の指導のもと全国から駆けつけた庭師は総勢約120名。

あれから1年、その後の土塀を見てきました。

拡大時のタイトル

荒木田土は亀甲形にひび割れカチカチに固まっていました。

何カ所か軽く崩れていて、下地の竹小舞が出ていましたが、それが何とも美しいです。

今改めて見てみると、腰積みのラフな感じと土塀の高低や長さのバランスがよく、

時間的なこともあって仕上げ塗りまでは出来ませんでしたが、

それがかえってこの空間には合っていると感じました。

現在土塀の表側には榊原八朗さん(明星大学教授)指導のもと、学生たちが庭を作っています。

つくばい流れの形式で、池に水が流れ落ちる計画のようです。

植栽も雑木を中心にしてあり、周りの山と同化して土塀も際立っていました。

土塀は造園のひとつのアイテムですが、植栽や水の動きなど様々なものを、相性の良く組合わせることによって、

空間性が生まれ良い空気が流れていくのでしょう。

この土塀は、時と共に風合いの魅力を増すものだと思います。

私達も、老いることに抗うのではなく、美しく歳を重ねていけたら良いなと思います。