藤倉造園設計事務所

育む空間

 

今年に入り、雨もなく乾燥注意報が出されていた東京でしたが、

今日は辺り一面の雪景色となりました。

静寂に包まれた雑木林にこんこんと降り積もる雪。

新雪で『キュッキュッ』と雪鳴きを響かせながら歩くのも楽しいものです。

山は静かに時を刻んでいますが、交通網は大混乱。

今日こそはお客さまの庭の雪景色を眺めようと意気込んで車に乗り込みましたが、

スリップをしている車などで渋滞の嵐。

予定していたお宅は全部回りきれませんでしたが、事務所近くのお宅を二現場訪問しました。

7年目の冬を迎えたTさんのお庭。

樹木も雪の重さに耐え、しっかりと大地に根を張り力強く成長しています。

昨年は害虫被害もさほどなく、年々健康な庭へと環境が改善されてきています。

こちらは2年前に作庭させていただいたSさんのお庭。

全体的にまだ幹の線が弱く雪の重さでしなった枝が目立ちましたが、

折れることなくたくましく生き続けています。

昨年はオオデマリやムシカリに害虫が発生しましたが、根気よく手で取り除き、除去したそうです。

愛情をかけ清潔に保っている庭は年々健康になり心地の良い空間になっていきます。

雪は余分な色彩やものを消しさり骨格を浮き立たせます。

引き算の美学なのでしょう。

飽きのこない空間づくりにはこのことを頭にいれてデザインしていかなければなりません。

そこにみどりの力を有効に活用できる知識とセンスが問われてきます。

言うのは簡単なのですが難しいことです。。。

与えられた空間に命を吹き込み、育んでいく庭にはある意味完成はないのかもしれません。

自然と一番身近に触れ合い楽しめて居心地の良い空間でなければならない庭。

10年後20年後100年後の未来の姿を見据えて提案提供し健康に保護育成していく為には

『もっと五感で自然と向き合って精度を上げていかないといけない』と改めて思った初雪でした。

 

木陰の中で

暑中お見舞い申し上げます。

猛暑日と熱帯夜が続き、一年の中でいちばん暑さが厳しい季節がやってきました。

オリンピック観戦も重なり寝不足な日々が続いています。

 

夏期剪定も目処が立ち、ようやく気持ち的にゆとりができてきました。

年々、夏の暑さが厳しくなり、気を付けて作業しないと熱中症になりかねません。

 

コンクリートに固められた街に、容赦なく照りつける太陽の光。

大地からは陽炎がゆらゆらと立ち上ります。

室外機からは熱風が吐き出され、ゆであがりそうです。

そんな中、大きな樹木たちで冷やされた空気が流れる緑陰は、

作業していても心地よく、爽やかな風が流れ、灼熱の暑さを軽減させてくれています。

風が葉を揺らせる音や、打ち水をして地面に水がしみ込んでいく音なども

夏の暑さを和らげます。

自然と上手く付き合っていくことが大切であり、楽しまないともったいないですね。

作庭してから12年の歳月を経た、この庭の木々たちは

害虫被害もなく元気に育ち、良い環境が保たれています。

 

害虫退治に小鳥たちが見回りにきてくれているようです。

大きな樹木は、小鳥たちの羽休めになり巣作りの場にもなります。

林床では小鳥たちからの贈り物である種から、マンリョウやセンリョウ、ヒサカキなどが

あちらこちらから芽を出しています。

実生の木々が豊富にあると自然らしさをより強く感じることができ、

偶然から生まれる美しさは眺めていても飽きません。

ここ浅間山の緑陰ではヤマユリが咲き誇っています。

蝉も大合唱を繰り返し、緑陰の空間ではさまざまな生物が命を燃やしています。

山道を歩いていると、珍しいタマムシがぶつかってきました。

この山では、もう見ることはできないと思っていたタマムシくんです。

 

開発や農薬散布などで居場所が無くなり、

当たり前にいた生物がなかなか見ることが出来なくなっている中で、

細々と命をつないでくれていたと思うと嬉しくてたまりません。

みどりを豊かに心地よい緑陰を増やし、

多くの生物にとって住みやすい環境づくりをしていかねばなりません。

そのような環境が、暮らしの庭から広がるよう願っています。

 

 

 

やまおやじ

降り積もった雪が流れ出す雨水の頃。

凍てついていた大地も緩みはじめ、潤いを増してきました。

歩くとサクサク音を立てていた落ち葉も、弾力がなくなり土に還る準備に入ってきています。

春に向けて嵐とも呼べる風が多くなり、一雨ごとに暖かくなって、さまざまな命が動き始めます。

そんな雑木林の主役、コナラとクヌギ。

一見、同じような姿で見分けがつきません。しかし、よく見ると幾つもの違いがあります。

秋はドングリなどで違いがはっきりと分かりますが、冬場は幹肌で見分けます。

若木ではなかなかプロでも見分けるのは難しいのですが、

ある程度の成熟した樹木になってくると、幹に縦の筋がはいってきます。

野趣味あふれるその幹肌は美しく、雑木の王様と呼ばれいます。

この木はクヌギ。コナラに比べると色も濃く、縦割れの筋もゴツゴツと荒々しさを感じます。

コナラとクヌギは昔から人の暮らしと共にありました。

薪にしたり炭にしたり、榾木となり椎茸をつくったり。

里山の雑木林には多くの生き物が共存しています。

浅間山でも樹木の更新と林床に光をあて健康な土地を維持していくため、伐採が行なわれています。

再生していく雑木だからこその工程です。

春には新芽が芽吹く10年後には立派な樹木になっていきます。

その雑木を切り出し、薪を暮らしの中で使ってきました。

写真家である今森光彦さんの著書で、『萌木の国』という本があります。

その中に『やまおやじ』と名付けられたクヌギの古木が出てきます。

堂々とした風格を持ち、何代にもわたって受け継がれてきた生きた文化財です。

この浅間山にもスケールは小さいのですが、ちょっぴり似ているやまおやじがいました。

人と共に生き続けている雑木林。幾つもの生き物が良い生態系のもとで過ごしています。

何代も先の人たちにも、この自然は残していかなければなりません。

小さなやまおやじが貫禄を増し、風格ある本物の主になるにはまだまだ時間はかかります。

明るい未来の為に、これ以上自然を破壊するのではなく、

豊かな土地を再生していく努力をしなければいけません。 (F)

春浅し

身の引き締まるような寒さの朝から仕事をしながら、

だんだんとポカポカしてくるのを感じていると、

お天道様のありがたさが身に沁みます。

ジャンパーもいらなくなった昼休み、

浅春の便りを探しに浅間山に赴きました。

コナラもクヌギも全て葉っぱを落とし、とても見晴らしのいい浅き春の浅間山です。

幹だけになった雑木達の線の美しさに見とれ、

その幹越しには、どこまでも冴え渡る青空と白い雲を望めます。

とても爽快な雑木林の中で、最高のお昼時を過ごし、

午後からはますます気分良く、自転車小屋の材料を刻みます。

一本一本丹念に刻み終わるとすぐにでも組み立てたくなるもので、

棟木から軒桁に垂木を渡してみました。

ごくごく簡単な刻みの木組みですが、陽だまりの中で、

こうしてピタッと収まってくれるととても気持ちが良くほっとします。

草屋根を乗せるため頑丈にと考えて作っている躯体のパーツがだいたい揃いました。

どんな小屋になるのかわくわくしながら、一手ずつ丁寧に進めています。(T)

一歩前に踏み出せる年へ


新年あけましておめでとうございます。

新しい年を迎え、気分新たに、一歩前に踏み出せるように行動したいと思います。

住まいの暮らしの庭から、心地よい環境を少しでも多く整えて、

小さな空気の波動が広がっていくことができるように取り組んで行きたいと思います。

新年の挨拶は幾度となく登場している浅間山からにいたしました。

私の原点の雑木林であります。

原風景として心に刻み込まれたこの浅間山は、

四季や時間帯、陽光の当たり方などで様々な表情を見せてくれます。

散歩で訪れるたびに新しい発見や清々しい気持ちをもらえます。

 

小さな悩みが解決するたびに新たな悩みがやってきますが、

地球の自然と時間が創り出してきた雄大な空間に身を置くと、心が豊かになり

悩みなどすっ飛んでいきます。

 

そんな力があり、心の豊かになる空間づくりが、

暮らしの生活の中から生まれていけば嬉しいことです。

 

自然のサイクルは、新緑の芽を出し、紅葉して、葉を落とし土に還ります。

その土を栄養として来年新たな芽を出していきます。

幹は年々太く大きくなり、陽があたる方向や広い空間に勢い良く伸びて生き抜いていきます。

 

人も同じで、生まれて老いて土に還っていきます。

私たちも大自然のサイクルの中では1年分の葉っぱに過ぎません。

人も未来に希望があり明るく生き抜いていかなければ楽しくはないでしょう。

私たちも未来に栄養として繋げられるものを残し、

力強く生き抜いていく為の方向性を見極めていかなければいけません。

昨年40歳を迎え人生の折り返し地点にたちました。

これからの造園人生、責任をもちながら着実に一歩一歩前に踏み出し、

歩んでいきたいと思いました。

 

本年もどうぞよろしくお願い致します。(F)

今日の浅間山

このブログにも何度か登場している浅間山。

そこは、藤倉造園設計事務所から歩いて数分のところにあります。

ありがたいことに事務所近辺でも、手入れを依頼してくださるお客様が多数おられ、

そちらの手入れの日の昼休みには必ずここを訪れます。

在りし日の武蔵野の風景を留めるここ浅間山は、

コナラやクヌギの高木の下にヤマコウバシやムラサキシキブなどの中木が、

伸び伸びと育っていて、感慨に浸れます。

現場へ向かう車中でも、こんな雑木林が一面に広がっている風景を見てみたかったな〜という

会話が幾度となくありました。

「落葉」などの名作を残した日本画家・菱田春草は、

その作品を代々木で描いたといわれていますが、

そんな風景が、ず〜っと広がっていたようです。

私達が庭で再現しようとしている風景も、武蔵野の雑木林であり、

そのためにも、ここ浅間山の佇まいを、ことあるごとに胸に刻むことは、

とても大切なことです。

数少なく残された武蔵野の風景を身近に体験できる幸運に感謝しつつ、

四季折々の風情を感じています。

今日は、その中の晩秋の風景を写真に収めてみました。(T)

そよそよとした庭 2年目の手入れ

朝早く事務所へと通う車内は、携帯画面に見入る人、イヤホンをしている人、

疲れきって寝ている人など、全体的にどんよりとした空気に包まれています。

ともすると自分もそんな波動に飲み込まれてしまいそうになる時もありますが、

この日は、新宿方面から上がる朝日を見て、歓声を上げている人が何人かいて、

そんな人達と乗り合わせることができると嬉しくなります。

この現場は、横浜市青葉区の庭。

ちょうど二年前に産まれました。

これは、もともとあった庭を更地にして、生け垣を植え終わったところです。

そよそよとした庭を望んでいた庭主さんの期待に応えるべく、

在来種の野山の木をバラエティ豊かに選んで、

林床は、本当の山の中のような雰囲気に近づけようと、

ウッドチップを敷き詰めてあります。

足の裏から伝わるフワフワとした感触は心地良く、雑草もあまり生えず、

落ち葉が落ちても全然気になりません。

L字型の庭の地形を活かし、蛇行して行く小道は、

この奥にはどんな風景が待っているのだろうという期待感を抱かせます。

これは、植栽後一年経った、ある夏の日の風景。

玄関前には、既存のシマトネリコがだけが勢いがあってボリュームがあるので、

それを手入れでうまく透かして軽くして、新しい雑木の仲間たちとの調和をとります。

そして、今日は二歳を迎えた庭の定期検診です。

今が盛りの紅葉がきれいな葉っぱをあまり落とさないように軽く整え、

かつ来年の庭の健康と風景を考慮しての手入れです。

この空間は、ギャラリーページのUM庭でもご覧いただけます。

事務所のすぐそこ、浅間山の木々も少しずつ少しずつ色づいてきました。

今年も残すところ後一ヶ月。

お客様達が気持ち良く新年を迎えられるように庭をきれいに整え、

かつ庭の木々が長い視野で見て良い住空間を醸成していけるように、

心を込めて、手を入れさせていただきます。(T)