藤倉造園設計事務所

立夏

立夏を迎え、待ちに待った春も名残を惜しみつつ送らなければならない時節となりました。

ハクウンボクの花も咲き始め、

春を惜しんでいる暇もなく、次々と、このナニワイバラや初夏の花が弾けます。

月も改まり、カレンダーをめくると今月はミズバショウとハンノキの湿原。

この影絵を見ていたら、どうしても湿原へと旅立ちたくなりました。

そこへ向かう前に、伝統的な構法による木のたてものつくりを、

建主さんや有志の方々が参加して行っている

きらくなたてものやさんの現場へと寄らせていただき、

土壁にするためにこしらえている竹小舞掻きのお手伝いをちょっとだけさせていただきました。

竹刈りや竹割り、柿渋塗り、小舞掻き、土壁の荒塗りなどは、

現代における「結」のような形でされていて、

何回か参加させていただいていますが、毎回、集まる方々の意識の高さと

現場に充満している良い波動、そして現場にいる子ども達の存在に、

温かい気持ちにさせていただけます。

そして、明くる朝、仙石原の湿原へ到着。

ミズバショウは、既に花は終わり葉っぱはグーンと大きくなって、

カレンダーのような風景とは違いましたが、気持ちの良いことこの上ありません。

これはリシリヒナゲシというようですが、数々の山野草が今を盛りと咲き誇っています。

奥に見えるのは、先日の安藤邦廣さん講演会でも登場した仙石原のすすき野です。

毎春恒例の野焼きを終え今は、新たに芽吹いた命が成長しつつあるところです。

雨も降ったり止んだりですが、湿原は少し霧がかかっているくらいの方が気分が出ます。

芦ノ湖も一時は穏やかでしたが、

天気予報通りの雷雨が来ると大荒れ、遊覧船も欠航していました。

そんな悪天候を間一髪逃れ、雷雨に洗われた清々しい空気の中、

古からしっかりと佇む箱根古道の石畳に、新緑の木々からポツリポツリと

水滴が落ちてきます。

そこを踏みしめ歩を進めていくと、

何代も受け継がれてきている「甘酒茶屋」へと辿りつきます。

甘酒も、こんにゃくのおでんもとてもとても美味しく、極上の一時を過ごせます。

箱根の旅の最後は、ここと決めています。

この茅葺きの茶屋の内部は、しっかりと木で組まれた梁が、いぶされて美しく黒光りして、

手作りで無添加の食べ物、あたたかくもてなしてくださるお店の方、

そんな茶屋に惹き付けられてくる旅人で、良い空気に満たされていました。

立夏を過ぎ、これから今年も暑い暑い夏がやってくるのでしょうか。

その前にいただいた暫しの休息期間、新緑の木々、きらきらと光る湿原・湖面、

愛着を持って丹念に育まれる本来の家、そして感受性豊かな方々との出会いから、

心のダムは満々と湛えられ、ちょっぴり自分の波動も高まった気がしました。(T)

根を回す

 

雑木林の新緑が一番色彩豊かな季節。

こんなにも新芽の色があるものかと思うほど、みどりのグラデーションが美しく、

山に咲く小さな花たちが色彩にアクセントをつけています。

鳥達のさえずりで雑木林は活気づき、生命力あふれる山に身を置くと、

穏やかな気持ちになり、強いエネルギーをもらった気分になります。

斜面地から花を咲かせているヤマブキです。

地味ではありますが、うぐいすが鳴き始める頃には咲き始め、

実も甘くて食べられるウグイスカグラなどが盛りを向かえています。

所沢の現場も、移植が芽吹きの時期と重なりました。

芽吹きの時期の移植は一番水を必要とするため、

根っこを切るとやわらかい新芽はぐったりとしてしまい、弱ってしまいます。

枝振りがよく素晴らしい木でも、突然の移植はできません。

根回しのできている、しっかりと準備してあるものを植え込んでいきます。

『雑木林の中で暮らしているような雰囲気にしてください』との希望でした。

話の中で畑仕事を趣味とされていることがわかりましたので、

庭の面積に対し大きく畑のスペースを確保して、ゆったりと楽しんでもらえるようになっています。

今回は建築の色が黄みがかったクリーム色です。

違和感のないように庭もある程度、色彩や質感を合わせていった結果、

はじめて使用した材料であふれましたが、味わいのある面白い雰囲気を醸し出してきました。

みどりが入ることで調和され、家もグッと引立ちます。

今回は新芽を傷つけることなく植栽を終えることが出来ましたが、気を抜くことはできません。

木の命を預かっているものとして、植物に無理はさせられませんから。

いつでもどんな時でも対応できるように準備を怠ってはならず、植栽から改めて学んだ気分です。

根回し、しっかりとした準備をすることで、はじめて可能になっていくこと。

未来に向かって、今何を準備していくべきか?改めて考えてみようと思います。(F)

夜桜

桜が見頃の時期となりました。

今年は遅い遅いと開花を待ち望んでいましたが、

入学式の時期に桜が満開になるのが本来の開花時期で、

この何年かが早すぎた開花をしていたように感じます。

穏やかな陽射しのもと、都内でもようやく満開に近い桜が見られるようになりました。

日中は、現場作業や図面書きに追われ、ゆっくりと桜を見ることが出来ませんでしたが、

夜桜のライトアップをしている自由学園.明日館を訪れました。

照明に照らされた桜は、とても美しい姿で迎えてくれました。

格調高い雰囲気に感動を憶えるこの明日館は、

近代建築の巨匠、フランク.ロイド.ライトとその弟子の遠藤新の設計です。

オーナーである羽仁夫婦の教育理念に深く共感し、設計を快諾したと言われています。

外観は『プレーリースタイル』で屋根は低く、建物は水平線を強調した平屋づくりですが、

中央棟には吹き抜けのホールがあり、大きなガラスが最上部まで設けられた

明るく開放的なデザインになっています。

開放期間中、中央棟の天井にも桜の照明がやさしく映し出されていました。

ホールではミニコンサートも開かれていました。

ゆっくりと心地よい音楽に浸りながら時間が流れていきます。


中央棟ホール、食堂への玄関廊下。廊下の両側には下駄箱、

傘立てやベンチが作り付けとなっています。

照明や収納棚、窓枠や椅子などすべてをライトがデザインしたもの。

遊び心にあふれ、幾何学的な中にもやさしさが感じられます。

ライト設計の帝国ホテルの椅子と似て、六角形を基調とした椅子。

ラワン材を使用し、背もたれは六角型で革張りのシート張られています。

可愛らしい椅子の座り心地は抜群です。

ライトが日本で出会った大谷石。

内部空間と外部空間を大谷石で統一してひとつにつないでいます。

調和を大切に、連なって流動している様子を演出し、

複雑なデザインの調度品が点在している空間は、

芸術性の高さ、全体構成、細部に至るまで、

ライトが悩み、楽しみながら設計をしたことを感じさせます。

建物は使いながら文化価値を保存する『動態保存』のモデルとして運営されています。

守っていくことは様々な障害や苦労があることと思いますが

いつまでも守り継いで未来に伝えていただきたいです。

 

文化財を身近に感じ、今を生きている美しいライトの遺産を肌で感じ、

夜桜とともに幸せなひと時を過ごすことができました。

 

貴重なひと時を与えてくださいました関係者の皆様、どうもありがとうございました。(F)

 

 

 

 

 

 

 

色気


打ち合せの為、神奈川県の葉山を訪れました。

久しぶりの海、朝日を見ようと朝早く出てきましたが、

厚い雲に覆われて見る事が出来ませんでした。残念。

葉山の現場は、住宅分譲地で長方形の土地ですが、オーナーの希望で建築を斜めに振ってあります。

庭としておもしろい感じになるのではないか、と楽しみな案件です。

良い提案が出来る様、イメージを膨らましていきたいと思います。

ここ数日、暖かい日が続いているので、春の花たちもようやく顔を出してきました。

スイセンやマンサク、梅やユキヤナギが綺麗に咲き始めています。

すぐそこまで春が来ている事を、花によって教えてもらいました。

植物の健気な姿で、私たちはリズムを取り戻す事ができます。

打ち合せ後、鎌倉に立ち寄りました。

鎌倉には幾つもの切通しがありますが、上の写真は釈迦堂切通しです。

このような洞窟的な切り通しは珍しく、なかなかの迫力があります。

荒々しく削られた壁。高さ約8mほどある壁面の上部は、

石質や削りだされた時代も古く、風化が著しい印象を受けます。

下部はやぐらなどが掘られ、供養壇や石塔類が設けられております。

石ノミの跡も残っている感じは生々しく、人と自然と長い年月でつくられた、

力のある切り通しです。

切り通しから削りだされた石は鎌倉石と呼ばれ、凝灰質の粗粒砂岩です。

柔らかく、加工・細工のしやすい鎌倉石は、用途も多く、さまざまな物に使われてきました。

耐火性も強く、蔵や鍛冶屋の炉にもなっていたそうです。

北鎌倉の浄智寺は鎌倉石をつかった美しい石段がありました。

長い時間をかけて、人の足と風化によって削られた鎌倉石は 丸びを帯び、

苔も乗り、渋い味わいを醸し出しだしています。

先人たちの積み上げた石段は美しい色気を漂わせていました。

尾根が複雑に入り組んだ鎌倉の地形を利用して、

山と山の谷間に鎌倉ならではの庭園文化が築かれていったのでしょう。

庭のちょっとした所に、さりげなく、ぽつんとある五輪塔も美しさを感じます。

材木座で4年前に手掛けさせていただいたお庭は、庭主様の愛情で格段に雰囲気をましています。

林床も丁寧に清められ、苔も乗りはじめました。

最近チャドクガの発生が多く、敬遠されてしまう椿ですが、何種類か植っています。

庭をよく観察して愛情をかけているので、初期の段階で駆除でき、

虫に食べられる事なく綺麗な花をつけています。

椿はとても良い樹木です。愛情のかけかた次第なんですね。

室礼を大切にして、季節を重んじて接している事で色々なものに意識がいくのかもしれません。

写真のアプローチも苔と同化してくると、ぐっと色気をましてくると思います。

色気….。

簡単な事ではありません。生涯の課題でしょう。

時と共に色気を醸し出しながら美しくなる空間、

常に意識はしていますが、なかなか難しいようです。

色気を感じられるようになり、歳と共に色気の漂う庭づくりをしていきたいものです。(F)

 

 

冴え返る

ここ数日温かい日が続き、梅の花も開きかけましたが、

三寒四温の名の通り、寒さがぶり返し、後ちょっとのところで踏みとどまっています。

古人は、この寒さのぶりかえしのことを、「冴え返る」と美しい言葉で表現したようです。

そんな寒さに耐えかねて、そこから逃れるように、ヤシの木がある地へと行って参りました。

そこは、板橋区立熱帯環境植物館。

清掃工場から出る余熱で暖められています。

マレーシアの民家を再現した小屋の手前にある木は、アブラヤシ。

この木からは、化粧品や洗剤、ポテトチップスやインストタントラーメンなどに使われている

植物油と表記されるパーム油が採れます。

アブラヤシは、熱帯雨林を切り開いて栽培され、

たいていはアブラヤシばかりが単一栽培されるため、

もともとその地で暮らしていた先住民や動物は生活できなくなります。

また、熱帯雨林の伐採は、もともと植林管理された森林からの伐採ではなく、

天然林(ジャングル)からの伐採で、

地球温暖化・気候変動に大きく関わっていると言われています。

アブラヤシは、私たちと生活レベルで関わっていますが、

ウッドデッキなどを作る建築屋さんや私達植木屋も関わっている問題があります。

それが、イペやウリン、セラガンパツの伐採です。

これらはハードウッドや高耐久材とよばれ、近年もてはやされていますが、

その堅さからもわかる通り成長が極めて遅く、直径20㎝になるのに60年かかると言われています。

それがまた高価で取引されるため違法伐採の対象にもなり、

天然林の破壊と自然と共に暮らす人々の生活の破壊、そして地球規模の温暖化を招いています。

せっかく作ったウッドデッキが長持ちして欲しい気持ちはもちろんありますが、

60%以上の森林面積があり世界に誇る持続可能な林業文化がかつてあった日本にいながら、

外国の民の生活を破壊し、石油を浪費して日本まで材木を運んでくることには胸が痛みます。

私達自身の問題として受け止めました。

 

熱帯植物館は自然な感じで再現されていて、とても楽しめたのですが、

それでも、外へ出て、

冬は冬らしく容赦なく吹きすさぶ寒風に揺られている在来種の見慣れた木々を眺めると、

正しい日本の冬を感じて心が落ち着きました。(T)

よりどり実どり

田舎へ行っても東京へ戻ってきても森林浴がしたくなります。

目黒の自然教育園はとても都心とは思えない深い森があり、荒れている近山へ行くよりも

満足感を得られます。

そこへ向かう道中の花屋さんで、ヤドリギの実を発見しました。

ケヤキなどの落葉樹に冬になると大きな鳥の巣のような物体を観察できることがあり、

その存在は知っていたのですが、こんな実をつけるとは驚きです。

自然教育園の中へ入ってもいろいろな実を見つけることができます。

ムサシアブミ。

サネカズラ。

そしてひときわ眼を引いたのは、このイイギリの多さでした。

大正二年にスタートした明治神宮の造営計画では、多数の造営候補地が挙げられました。

富士山、筑波山、箱根、御岳山、飯能などの他に

この自然教育園の前身・白金火薬庫もありましたが、

常緑樹を主とする荘厳な森をつくる方針から、落葉樹の多いここは外れたのでした。

とはいえ、関係は深く明治神宮を作るために、ここ白金火薬庫からは、

クロマツ、スダジイ、アカガシ、イロハモミジなど合計500本以上の樹木が移植されました。

一枚前の写真にカラスが多く写っているのが確認できるでしょうか。

そのカラスが落としたイイギリの実が、薄氷の上にポツンと落ちていました。

60年前、この森の階層は、高層にマツやモミの針葉樹、中層に落葉広葉樹、

下層に常緑広葉樹という構成になっていました。

それが、大気汚染などに弱い針葉樹が弱まり、そこにできた空間に、

陽樹で成長の早いイイギリのような木が増えています。

これからは、さらに常緑広葉樹へと遷移して、安定した極相へと向かいつつあるようです。

凛とした空気が心地良い朝から、ポカポカした日中を過ぎて、

凍った水面に西陽が反射して、枯れすすきを照らす時間になるとぐっと温度が下がってきます。

いつまでもいたい樹林から、ようやく落ち葉を踏みしめて家路へと向かうのですが、

この冷え込みが、住処の温もりを一層引き立ててくれます。(T)

水の如く

ここは茨城県日立市の助川山の山頂から見た日立市の市街と太平洋の様子です。

時には猛り狂うこともある大海ですが、いつも私たちに海の恩恵を届けてくれるのもこの大海。

今年の正月も穏やかに穏やかに新たな年への抱負を胸に気持ちを新たにする心を

包み込んでくれました。

豊かな海を支えるためには、海へと注ぐ川の水源がある山が豊かであることも重要なことです。

海から40分も車で走り、御岩神社から御岩山へと登ります。

頂上近くには奇岩怪石があり、ロッククライミングの練習場にもなっていたり、

田中澄江さんの「花の百名山」にも紹介されるイワバカマやショウジョウバカマが

春先には咲きます。

その少し下に御岩神社奥の院は、佇んでいます。

杉木立に囲まれ厳かな雰囲気です。

続いて詣でたのは、浄蓮寺渓谷にある浄蓮寺。

茅葺きの屋根に描かれた曲線がとても美しく見とれてしまいます。

この浄蓮寺は一体の山と渓谷も擁しているため、植林されて杉林になることもなく、

林床に光が差し込む豊かな照葉樹林となっていて、その中に三十三体観音像が鎮座しています。

十一面観音や馬頭観音、如意輪観音、千手観音など、どの観音様も暖かい眼差しで、

未熟な我が身を迎えてくれます。

さらに北へ行くと花園神社があります。

こちらにも幾星霜を経てきたのかと途方に暮れる杉の大木やコウヤマキの大木がそびえています。

参拝客で賑わう花園神社から、渓谷を遡っていくと奥の院の少し手前に七つ滝はあります。

写真にはその迫力を写し取ることはできなかったのですが、圧倒されるものがあります。

あと少し行けば福島県というだけあって川も凍っています。

雨や雪が降って樹木にかかり、それが滴り落ちて土に染み込み、

湧き出たものが川となり海へと注ぎ、それがまた蒸発し、水としての輪廻転生を繰り返します。

水五訓というものもありますが、水は自ら活動して他を動かし、

常に己の進路を求めて止まらざるもの。

自然の摂理に従いながら、しなやかにたおやかに己の姿を変えながら流れていきます。

明鏡止水という言葉通り心を穏やかにしなければ真実も見つめられません。

これから始まる新しい一年、水の如く生きたいものです。(T)

時を超えて

今年も残すところ、わずか二ヶ月、待ったなしで怒濤の手入れが始まりました。

この日は風もなく秋晴れのとても穏やかな一日です。午後から剪定枝を堆肥にするため、

陶陽庭に運び入れます。一年も寝かしておくと、とても状態の良い腐葉土が出来上がります。

その腐葉土を寒肥えとして、油かすや鶏糞など何種類かブレンドして木の根元に埋め込んだり、

畑の肥料として混ぜ込んでいます。

一般的に剪定枝はゴミとして処分されますが、こうして循環させることができると、

とてもゴミとは言えない立派な資源です。

陶陽庭がある上野原の地元農家の方々も「このような腐葉土が畑には一番良い!」と

喜んで貰いにきてくれます。

化学肥料に頼らず、うまく循環していけると素晴らしいのですが。

陶陽庭からの帰路、たまには違うルートを通ろうと、かつて長寿の村として有名になった

棡原(ゆずりはら)村を抜け、檜原村に出ました。

檜原街道沿いには秋川渓谷があります。とても良い渓谷です。

この渓谷は幼い頃からキャンプや釣りをしによく訪れたことがあります。

魚の方が一枚も二枚も上手な為、まったく川魚を釣った記憶はありませんが、

小学校卒業文集には趣味は釣りと書いてありました。

釣ったことは覚えていませんが、楽しく飛び回っていたことは覚えています。

なかなか渓谷上流には子供達だけでは行けず、親をはじめ大人の力を借りて行ったものです。

釣れない事を分かっていて付き合ってもらったことに、今さらながら感謝をしています。

この滝は、吉祥寺滝と呼ばれている所で、吉祥寺というお寺のそばにあります。

写真では伝わらないと思いますが、かなり豪快な滝です。

しばし佇んでマイナスイオンを十分吸収してきました。

五日市に入りしばらくすると、秋川渓谷沿いに炭焼き山菜料理の「黒茶屋」があります。

ここは250年前の庄屋屋敷を移築した母屋を中心に離れが点在しており、

山里の風情が味わえるお店です。

離れも茅葺きや杉皮葺きの屋根に苔や草、シダなどが生え、楽しませてくれます。

この「黒茶屋」は、私の尊敬する庭師・金綱重治氏の設計・施工の箇所もあります。

見に来るたびに新たな発見があり、勉強させられます。

「黒茶屋」からほど近くに広徳寺という応安6年(1373)に創設された

臨済宗の寺院があり、そこまで足を伸ばしました。

この写真は総門で入り口にあたります。檜皮葺きの下側が茅葺きとなっています。

参道沿いに進むと山門、本堂と続き、その山門は茅葺き二層式で美しさは絶品です。

このような地にひっそりと、こんなにも美しい建築が残っていることに感動すら覚えます。

堂々としたカヤやタラヨウの巨樹も歴史を感じさせます。。

時代を超えて感じることのできる美しさに接する中で、未来に恥じぬように、

今できる精一杯のことを考え、行動していかねばならないと強く感じた一日でした。

 

 

 

 

 

筑波山麓を訪ねて

日本庭園協会東京都支部では年に一回、異業種の方をお呼びして講演会を行なっています。

異業種の方々から受ける刺激は大きく、たくさんの収穫が得られますが、

次回は、来年一月に筑波大学芸術学系教授で建築家の安藤邦廣氏にお願いを致しました。

安藤先生は民家や日本の建築文化を研究されている第一人者です。

高田造園設計事務所の高田宏臣さんの多大な尽力もあって、

今回の申し出を、「お力になれるのであれば」と快く引き受けてくださいました。

茅葺きの民家や農村景観が日本人の原風景として失ってはならないもの、

断熱性と通気性を兼ね備えた茅葺き屋根の優れた居住性が見直され、

茅は石油に替わる持続可能で循環する植物資源としても注目されています。

日本人のDNAに刻まれた原風景を、建築と庭で景観として取り戻し、

未来に繋がる大きなヒントを与えてもらえる講演会になると思います。

楽しみでなりません。詳細が決まり次第、お知らせ致します。

そんなお願いに筑波に行った折、筑波山に立ち寄りました。

関東で庭石といえば筑波石が最も有名であり、

苔も載りやすく良い雰囲気を出してくれます。恵まれた環境のもと石工職人も多い土地柄です。

車で移動中あちらこちらで、五輪塔や野仏などを目にしました。

宝筺山山頂には、鎌倉時代中期の宝篋印塔が置いてあるため、早く目にしたくて気持ちが焦ります。

なんとか山頂に到着!

なんとも美しい宝篋印塔が出迎えてくれました。

権力のためではなく名も無き民を救いたいという思いから生まれた美しさが、

時代を超えて人々の心に響き続けます。

現代も混迷深まる時代でありますが、今だからこそ、

本物のもの、本物の仕事、本物の景観へとシフトを入れ替え

軌道修正して行かねばならないのでしょう。

午後からは安藤邦廣氏が顧問を勤める里山建築研究所の花田さんのご案内で

平沢官衙遺跡と筑波山麓美六山荘を見学することができました。

美六山荘・離れの板倉は大正4年に建てられていた下館の石倉を、

筑波山麓に板倉造りとして再生してあります。

立派な松の梁組、建具、広々とした広縁が設けてあり開放的な空間になっています。

南側に張り出した庇の上の屋根は、草屋根でイチハツやカンゾウ、ノシバなどが植えられ、

季節の彩りを添えています。

この古民家は、かなりモダンで格好良く、暫く見とれてしまいました。

センス良く手を加えることで建築も庭も蘇りますが、かなり難しいことです。

断熱材や防水層にも新建材は一切使わず再生可能な植物だけで作っていながら、

デザイン的には茅葺きはこうあるべきと言う概念を上手に塗り替えた住まいではないでしょうか。

日本のこの場所にしかない景色、ホタルが舞う山里に馴染んだ風景でした。

このような建築を見せていただき感謝しております。どうも、ありがとうございました。

 

<追伸>

お知らせです。

安藤邦廣先生が代表理事を務める日本茅葺き文化協会で茅葺き体験ワークショップが、

世界遺産の合掌造り集落・五箇山で11月19日・20日に行なわれます。

定員はあるようですが、興味のある方は参加してみてください。

詳しいことや申し込みは下記のホームページからよろしくお願いします。

http://www.kayabun.or.jp/

 

 

 

 

 

 

自然に還す

武蔵野の一角・府中市浅間町に構えている事務所の近くには比較的自然が多く残されています。

武蔵野の雑木林の面影を残す浅間山公園、はけと呼ばれる河岸段丘とその下に流れる野川一帯。

ここ野川公園では風土に適した在来種の樹木や山野草を観察することができます。

東八道路を挟んで北側にはこのような木道の散策路があり、

南側には雑木林と芝生が広がっています。

ここは、もともとゴルフ場だった場所を昭和49年に買収し、

その周辺の神代植物公園、武蔵野公園、多磨霊園、調布飛行場、浅間山公園、府中の森公園などの

緑地を含め「武蔵野の森構想」のもとに造成を行い、昭和55年に開園したようです。

かがみ池にかかる残照のモミジです。

百合の実も種を飛ばす準備万端です。

日本においては、ゴルフ場は企業の接待に多く利用され、バブル景気時代に建設ラッシュが起きて、

リゾート法がその後押しをするようなこともあって、1990年代には日本のゴルフ場の総数は

2000を超えたとも言われています。

この多すぎるゴルフ場を少しずつ自然に還していくことが、一世代前の時代の反省を鑑みて

私たちの世代にできることの一つなのかもしれません。

野川でも、川沿いに湿原や貯池、田んぼなどを復活させる自然再生事業を行っている

という看板が立っていました。

まさに自然そのもののような美しい風景を作り出す庭師の故・道家健さんは、

座談会「飯田十基の精神」の中で、

「庭を作ってきた技術でもって、壊してしまった自然を再生する方に活用できればいいと

願っています。」と述べ、

庭を作るというよりも、風景を自然に返納していくことの必要性を語っています。

コスモスが風に揺れる野川っぺりを歩きながら、そんなことを思い出しました。

来年もまたありがたいことに、既に何件か、お客様の家の新しい住空間作りを依頼されています。

そこで私たちにできることは、庭を作るというよりは、その地の風土を感じ、

在来種の木を、自然に還すという意識を持って植えることなのかもしれません。

野川から見るすすき越しの夕焼けです。

そんなことを考えながら、「はけ」の辺りを歩いていると、こんな屋台を発見しました。

火鉢と鉄瓶で沸かした小金井の井戸水で、豆を手動で挽いてコーヒーを出してくれる

「ドアのない喫茶店『珈琲屋台 出茶屋』」(http://www.de-cha-ya.com/)です。

日替わりで小金井近辺に店を出しているようで、一度通り過ぎたものの、

ものすごく気になって戻ってコーヒーを注文しました。

使っている道具の一つ一つが味があって、見ていて楽しく、炭火の遠赤外線にあたりながら、

美味しい美味しいカフェラテをいただきました。

どうも、ありがとうございます。