藤倉造園設計事務所

筑波山麓を訪ねて

日本庭園協会東京都支部では年に一回、異業種の方をお呼びして講演会を行なっています。

異業種の方々から受ける刺激は大きく、たくさんの収穫が得られますが、

次回は、来年一月に筑波大学芸術学系教授で建築家の安藤邦廣氏にお願いを致しました。

安藤先生は民家や日本の建築文化を研究されている第一人者です。

高田造園設計事務所の高田宏臣さんの多大な尽力もあって、

今回の申し出を、「お力になれるのであれば」と快く引き受けてくださいました。

茅葺きの民家や農村景観が日本人の原風景として失ってはならないもの、

断熱性と通気性を兼ね備えた茅葺き屋根の優れた居住性が見直され、

茅は石油に替わる持続可能で循環する植物資源としても注目されています。

日本人のDNAに刻まれた原風景を、建築と庭で景観として取り戻し、

未来に繋がる大きなヒントを与えてもらえる講演会になると思います。

楽しみでなりません。詳細が決まり次第、お知らせ致します。

そんなお願いに筑波に行った折、筑波山に立ち寄りました。

関東で庭石といえば筑波石が最も有名であり、

苔も載りやすく良い雰囲気を出してくれます。恵まれた環境のもと石工職人も多い土地柄です。

車で移動中あちらこちらで、五輪塔や野仏などを目にしました。

宝筺山山頂には、鎌倉時代中期の宝篋印塔が置いてあるため、早く目にしたくて気持ちが焦ります。

なんとか山頂に到着!

なんとも美しい宝篋印塔が出迎えてくれました。

権力のためではなく名も無き民を救いたいという思いから生まれた美しさが、

時代を超えて人々の心に響き続けます。

現代も混迷深まる時代でありますが、今だからこそ、

本物のもの、本物の仕事、本物の景観へとシフトを入れ替え

軌道修正して行かねばならないのでしょう。

午後からは安藤邦廣氏が顧問を勤める里山建築研究所の花田さんのご案内で

平沢官衙遺跡と筑波山麓美六山荘を見学することができました。

美六山荘・離れの板倉は大正4年に建てられていた下館の石倉を、

筑波山麓に板倉造りとして再生してあります。

立派な松の梁組、建具、広々とした広縁が設けてあり開放的な空間になっています。

南側に張り出した庇の上の屋根は、草屋根でイチハツやカンゾウ、ノシバなどが植えられ、

季節の彩りを添えています。

この古民家は、かなりモダンで格好良く、暫く見とれてしまいました。

センス良く手を加えることで建築も庭も蘇りますが、かなり難しいことです。

断熱材や防水層にも新建材は一切使わず再生可能な植物だけで作っていながら、

デザイン的には茅葺きはこうあるべきと言う概念を上手に塗り替えた住まいではないでしょうか。

日本のこの場所にしかない景色、ホタルが舞う山里に馴染んだ風景でした。

このような建築を見せていただき感謝しております。どうも、ありがとうございました。

 

<追伸>

お知らせです。

安藤邦廣先生が代表理事を務める日本茅葺き文化協会で茅葺き体験ワークショップが、

世界遺産の合掌造り集落・五箇山で11月19日・20日に行なわれます。

定員はあるようですが、興味のある方は参加してみてください。

詳しいことや申し込みは下記のホームページからよろしくお願いします。(F)

http://www.kayabun.or.jp/

 

 

 

 

 

 

自然に還す

武蔵野の一角・府中市浅間町に構えている事務所の近くには比較的自然が多く残されています。

武蔵野の雑木林の面影を残す浅間山公園、はけと呼ばれる河岸段丘とその下に流れる野川一帯。

ここ野川公園では風土に適した在来種の樹木や山野草を観察することができます。

東八道路を挟んで北側にはこのような木道の散策路があり、

南側には雑木林と芝生が広がっています。

ここは、もともとゴルフ場だった場所を昭和49年に買収し、

その周辺の神代植物公園、武蔵野公園、多磨霊園、調布飛行場、浅間山公園、府中の森公園などの

緑地を含め「武蔵野の森構想」のもとに造成を行い、昭和55年に開園したようです。

かがみ池にかかる残照のモミジです。

百合の実も種を飛ばす準備万端です。

日本においては、ゴルフ場は企業の接待に多く利用され、バブル景気時代に建設ラッシュが起きて、

リゾート法がその後押しをするようなこともあって、1990年代には日本のゴルフ場の総数は

2000を超えたとも言われています。

この多すぎるゴルフ場を少しずつ自然に還していくことが、一世代前の時代の反省を鑑みて

私たちの世代にできることの一つなのかもしれません。

野川でも、川沿いに湿原や貯池、田んぼなどを復活させる自然再生事業を行っている

という看板が立っていました。

まさに自然そのもののような美しい風景を作り出す庭師の故・道家健さんは、

座談会「飯田十基の精神」の中で、

「庭を作ってきた技術でもって、壊してしまった自然を再生する方に活用できればいいと

願っています。」と述べ、

庭を作るというよりも、風景を自然に返納していくことの必要性を語っています。

コスモスが風に揺れる野川っぺりを歩きながら、そんなことを思い出しました。

来年もまたありがたいことに、既に何件か、お客様の家の新しい住空間作りを依頼されています。

そこで私たちにできることは、庭を作るというよりは、その地の風土を感じ、

在来種の木を、自然に還すという意識を持って植えることなのかもしれません。

野川から見るすすき越しの夕焼けです。

そんなことを考えながら、「はけ」の辺りを歩いていると、こんな屋台を発見しました。

火鉢と鉄瓶で沸かした小金井の井戸水で、豆を手動で挽いてコーヒーを出してくれる

「ドアのない喫茶店『珈琲屋台 出茶屋』」(http://www.de-cha-ya.com/)です。

日替わりで小金井近辺に店を出しているようで、一度通り過ぎたものの、

ものすごく気になって戻ってコーヒーを注文しました。

使っている道具の一つ一つが味があって、見ていて楽しく、炭火の遠赤外線にあたりながら、

美味しい美味しいカフェラテをいただきました。

どうも、ありがとうございます。(T)

「はけ」を歩くと

藤倉造園設計事務所を少し北側へ行くと、「はけ」と呼ばれる国分寺崖線が

東西に走っています。これは、西は立川市から東は世田谷区まで延びていて、

「はけ」というのは崖下から清らかな水が湧く場所を指しています。

その線上には、「滄浪泉園」や「はけの森美術館」、宮崎駿監督の「借り暮らしのアリエッティ」の

モデルにもなっていそうな民家などがあり、楽しく散歩できます。

小金井から、「はけの森美術館」を抜けて、武蔵野公園あたりまでいくと、

その延長線上に公園と見まがうとても大きなお屋敷があります。

今日は、その邸内を見せていただくことができました。

門からのアプローチの石畳です。

苔が乗っていて、とても美しいです。

もともとの雑木林を生かして、「はけ」の上から下まで庭は広がります。

武蔵野本来の自然な植生の中に、人間の暮らしの場として、さりげなく石畳が佇んでいます。

いつまでも見ていたい、あられこぼしでした。

この「はけ」を包み込む雑木林を、人間の暮らしの中へ取り込むための接点として、

「庭」にしたのは、雑木の庭の先駆者・飯田十基さんとその門下・星進さんです。

貴重なものを見せていただき、どうもありがとうございました。(T)

人が集う空間

私の友人であり、良きライバルでもある高田宏臣氏(高田造園設計事務所)

の新作の仕事を見せてもらいました。

高田さんは環境意識も高く、良い庭とはなにか?良い空間とはなにか?

と自問自答を繰り返しながら、常に進化し続けている作庭家です。

口癖のように「ひとつの大きな森として、山と都市とを繋げていきたいと」語っています。

そして今、夢への大きな一歩として、幾つかのプロジェクトも進んでいるようです。

6月下旬に完成したこの庭は、どうしても見ておきたかった庭のひとつです。

この空間は写真には写らない空気感を肌で感じさせてくれます。

もともと棚田であったこの土地は、自然に囲まれており絶好のロケーションです。

そのロケーションを借景として、自然にさりげなく植栽で繋げてあります。

石積みも棚田のそれを思わせる、ざっくりとした積み方で隙間からシダやリュウノヒゲなどの

下草が顔を覗かせています。

ストーブ用の薪置き場と、小さなスペースではありますが、

季節の野菜たちが玄関アプローチ横にあり、来客する人たちの眼を楽しませてくれます。

この土地は薮であり足の踏み場もなかったそうです。

その中に大きな榎が群れて点在していて、かなり珍しい光景です。

「この榎に惚れ込んで土地を購入しました。榎は一里塚にも植えられ、大きな木陰をつくり旅人や

地域の人々の集う場所であったそうよ。」と嬉しそうに奥様がおっしゃっていました。

薮だらけで周りの人たちが心配していたこの土地を、良くなると見抜いて実行し、

そして今、すばらしい環境に整っています。

地域の人たちとの新年会など、様々なイベントを行なうこの空間に身を置いて語らうと、

時を忘れ名残惜しい気分になります。

居心地のいい空間には、決して自然に逆らわない、

建築と庭とその周りの環境がひとつになった時に感じられる

やさしい空気に満ちた世界が広がっていました。

 

突然の訪問にも拘らず、笑顔で向かえていただき、貴重なお話をまで聞かせていただきました。

感謝感激致しております。ありがとうございました。

良い刺激を貰った帰り道、さわやかな風が吹いていました。

良い空間にしていく為に、何をすべきか?

糸口が見えてきたような一日でした。(F)

これからの美しい暮らし

深田さんを訪ねた後は、すぐ近くの鴨川和棉農園に立ち寄りました。

日本には、日本の気候風土に適した日本綿(和棉)がありますが、

現在は大量に農薬を使用する輸入綿に依存しているために、日本綿は絶滅の危機に瀕しています。

こんなきれいな花が咲きます。

洋綿は、実が上を向いて割れますが、和棉はこのように下を向くため雑菌が入りにくく、

病気にも強いため農薬を必要としません。

庭でも、なるべく潜在自然植生を踏まえながら、風土に合った自生する木を

使うことが、何よりも健康な空間づくりに欠かせないと思っています。

そのお隣には、旧水田家住宅が残されています。

力強く組まれた石組みと重厚な長屋門です。

そこをくぐると茅葺きの寄棟造の母屋が、どーんと居座っています。

茅葺きの屋根の中で、南面には瓦葺きの下屋が差し掛けてあり、

それが房総民家の特色のようです。

大山千枚田です。

田を耕す人が絶え荒れ果てていたこの地は、オーナーを募ることで、

こうして維持することができています。

ここは日本で唯一雨水のみで耕作を行っている天水田です。

今回の台風でも洪水や土砂崩れの心配は尽きませんが、

棚田には、生物の多様性を支えたりする他に、

洪水などの災害を防止するなどの多面的機能があります。

棚田のあぜ道へ足を踏み入れると、歩みを一歩進める度に飛び跳ねるものがありました。

このトノサマバッタの道案内に導かれるように、奥へと進むと、

収穫を終えた稲が天日干しされていました。

乾燥機の普及につれて、この「はざがけ」の風景は一時期減りました。

しかし天日干しによる効能は高く、ただ郷愁を呼ぶ美しい風景というだけではなく、

用と美を兼ね備えた暮らしの方法であり見直されてきています。

残暑が厳しくても、この曼珠沙華は彼岸花という別名に忠実に、

お彼岸という暦に正確に出てきます。

温度に感応するのではなく、月の進行などと関係があるのでしょうか。

この後、高田造園設計事務所が設計施工された庭を見に行きますが、

その様子は、次のブログ「人が集う空間」をご覧ください。

見たいところを全て見終えて、最後に向かったのは、

「うつわや+cafe  草 so 」です。

日々の暮らしをさりげなく彩ってくれそうな器達を見せていただき、

シンプルで気持ちのいい店内で喉を潤わせていただきました。

ここも棚田を見下ろす高台にあり、窓からの景色にみとれながら、

自然の豊かな中での暮らしを始めた「草」の素敵なお二人との

お話が心地よかったです。

今回の小旅行で、とても印象に残っているのは、

お会いした方々の顔がとてもきらきらと輝いていたことです。

今までの幸せの物指しとは違う価値観で生きる暮らしが、

いろいろなところで芽吹いているようですが、

鴨川は、中でも、とても先進的な地域の一つのような気がしました。

ここには消えつつある懐かしい風景ではなく、

取り戻しつつある、これからの美しい暮らしがありました。(T)

心地よい風に吹かれて

千葉県鴨川市の家の完成見学会へ行きました。

二十坪ほどの小さな木組みと土壁の家です。

新建材を一切使わず、国産の自然乾燥させた木を使い、丁寧に手刻みで建てています。

建物が自律的に振る舞う柔構造は古武術に通じる部分もあり、

しなやかでたおやかで、地震の時にも力を逃し家を守ると言います。

大きな梁などの構造部分を見せることで、それが意匠としても機能しています。

ロケーションは、棚田の休耕田の上のとても見晴らしのいいところです。

設計から施工まで一貫して行うのは、

深田真工房(http://www.ne.jp/asahi/fukada/gont/)の深田真さん。

生家は昔ながらの日本家屋で、庭に栗や柿などたくさんの樹木が生きていたそうです。

そんな幼い時の座敷童と共に過ごした記憶が、今の仕事の原点のようです。

気持ちのいい風が通り抜け、この上なく心地よく、いつまでも寛いでいたい感じです。

すっかりリラックスしてしまい、深田さんにはいろいろなお話を聞かせていただきました。

縁側からの眺めは、池こそないものの修学院離宮の上御茶屋からの景色を思い出します。

壮大な景色を背景にして、大きな木が近景としてありいい感じですが、

このような環境では、作り込んだ庭など必要ないようです。

この竹をつっかえ棒に解放されている部屋は、お風呂場です。

露天風呂のようにここからの景観を堪能できます。

ついつい長湯してしまいそうです。

部屋の中の設えも、品があります。

身の回りの自然の材料だけで作られたこの家では、

親子4人のご家族が住まわれるそうです。

心地よい風の通り抜けるこの朗らかな住まいで、次の世代になっても、

二百年、三百年と住み継いでいくのでしょう。

深田さん、お施主様、どうもありがとうございます。(T)

玉堂

多摩川の上流にたたずむ玉堂美術館を訪れました。

日本画家の巨匠、川合玉堂が青梅市御岳で晩年を過ごしたのを記念して建てられた美術館です。

建築は吉田五十八氏、庭園は中島健氏と日本を代表する人たちで設計されています。

庭園はシンプルな構成ではありますが、周りの山を取り込み壮大な景色が広がっています。

雑木と花との自然観を得意としていた中島健氏の作風とは違い、本当にシンプルです。

その土地の置かれた環境や空気感を大切にして、この空間は生み出されたのでしょう。

美術館の中には、玉堂が16歳、18歳の頃に描いた写生があり、

それが驚くほど精密に描かれていて、目を奪われました。

基本がしっかりとしているからこそ、歳を重ねて、画風が変化したりしても、

作品に品と深みが出るのかもしれません。

庭も同じで、基本をしっかりと押さえないと、人に感動を与える空間は生み出せない気がします。

自然と共につつましく生きる人々の姿があるのが玉堂画の特色であり、

自然以上の自然を描き出すと評されますが、そんな神の領域には及ばずとも、

せめて、少しでも美しい自然に近づきたいと、

日々庭づくりに精進しています。(F)

森の妖精

古くから霊山として崇められ、植物を始め野鳥や昆虫の宝庫として知られる御岳山を訪れました。

あいにくの雨模様でしたが、霧が巻き幻想的な景色を見ることが出来ました。

私の好きな野草、レンゲショウマが今盛りを迎えています。

写真はちょっとピンボケしていますが、かわいらしい花がクマザサやシダなどの下草を押しのけ、

群れをなして咲いています。

幾度か庭にレンゲショウマを植えたのですが、なかなか難しいようです。

標高や夜露など取り巻く環境が山と街とは違いストレスなのでしょう。

植物にとってストレスのない環境づくりに力を注がなければなりません。

御岳山山頂には武蔵御嶽神社があり、神秘的な空気に包まれています。

写真の本社本殿は神明造で、現在ではパワースポットになっています。良い力を貰いました。

明日からの仕事に活かしていきたいと思います。(F)