都内にお住まいのオーナーの別邸であり、敷地に建てられた母屋を中心に回遊できるように空間作りをしてあります。
「雑木林の中に住むのが夢」という希望をかなえるため、雑木を中心に春の芽吹き、花の彩り、秋の紅葉などバラエティに富んだ色彩を見せる、野趣に富んだ庭を心がけました。小道は家の前のテラスから奥ゆかしく見え隠れし、そこを歩いていくと景色が刻一刻と展開していく醍醐味を味わえます。
広い敷地を周囲の環境に恵まれているこの空間では、比較的ゆったりと樹木本来の伸び伸びとした姿に成長させられるため、林床に木漏れ日が踊る柔らかい手入れをすることができます。
作庭当初は、出てきていた雑草も、時を経てより健康的になった林床では、変わって美しい苔に敷き詰められています。雨が降った時には、雨樋を伝って水が集められ、ただ単に、それを実用的に排水するのではなく、木々の中を蛇行して、美しい流れを描いて行きます。
この空間は、そんな用と美の庭でもあるのです。
雑木の庭が欲しかったTさんは、庭の中に来客用の駐車場も含めて、美しくデザインして欲しいという要望をくださいました。普段は、車が止まっていない駐車場、その時に、どう見栄え良くするかという点で、配置など、かなり悩みました。
最終的に、高さの違うウッドフェンスを互い違いに建て、その道路側に、枕木と石で駐車場を構成しました。そのウッドフェンスが、大窓のある住宅の目隠しとなっており、その高さや、縦にするか横にするかなど、かなり検討を重ねました。
リビングから庭が一続きとなるような空間構成の中、フォーカルポイントとして、荒々しい石組みの中に、水鉢を据え、そこには、山間からの湧き水のように、流木を伝って、水が滴ってきます。
駐車場から、ウッドフェンスの間を抜け、玄関へと至る道は、ゴツゴツとした石を敷き、足の裏から、山を歩いているような感覚を味わえます。
家の大屋根には、雑木からの木漏れ日が、影を落とし、そよそよと揺れます。
建築の南側に面した幅2.5m、奥行き15mの細長い敷地での空間作りです。
庭主様の希望は、八ヶ岳のような風景を、雑木主体の植栽と、流れで再現させること。
流れは、沢ガニが住んでいそうな上流付近の渓流のように、できるだけ自然に作り、角の尖った荒々しい石で骨格を作り、急流あり、浅瀬あり、そして淀みでは、そよそよと揺らぐ木々や空を映し出します。
そんな空間では、涼やかな水音を耳でも楽しめ、目をつぶっていても空間の心地良さに浸れます。
植栽は、雑木の中に、カヤやチャボヒバなど針葉樹をも交え、標高の高い地にいるような感覚を抱けるよう意識しました。
Iさんは、父の代から、30年来のおつきあいをさせていただいています。住宅のリフォームと共に、庭にも手を入れさせていただきました。予算だけを決め、図面もなしですべてを信頼して任せていただいたので、とても創作意欲をかき立てられました。
Iさんの庭は、雑木林ゾーンとテラスゾーンに分けられています。テラスのフォーカルポイントに井筒を設け、そこから流れ出す水が小川となって、雑木林の縁を潤します。テラス周りは明るく、雑木林は暗くすることで明暗の風情が心地よく、奥行き感を演出します。二つのゾーンに、明暗がありながら、それでいて、統一感があることも、こだわったことの一つです。
既存の樹木をできるだけ残すことで、以前の面影を残すことにも尽力しました。
Iさんの庭は、北側にある2×4mの日当りの良くない空間です。
その、薄暗さを利用して「水場」を作ることにしました。広さを少しでも感じられるように、住宅に対して斜めに土留めを作り、真ん中には英国製のアンティークであるブリキのバケツを置きました。庭の主景にバケツを使うことで、モダンな坪庭になっています。又、使っているレンガは、大小交えて組み合わせ、積み上げる際も、直線的に整列させるのではなく、少し出したりすることで、陰影を出すことも心がけました。
意外に思われることですが、狭かったり、日が当たらなかったりという制約があった方が、味のある渋い空間は生まれる気がします。
Oさんの庭は、既存のタイル貼りの直線の園路を生かすことと4台分の自転車置き場を設けることが条件でした。
普段は、蛇行した小道が生み出す空間に植栽をすることが多いので、設計段階でかなり悩みました。
自転車置き場は一カ所にまとめず、園路の両側にずらして配置し、雑木林の下に佇ませています。玄関の奥は、少し地盤を高くし高低差を付けることで、空間を魅力的なものにしています。一見、駐輪場は雰囲気を壊してしまいそうな気がしますが、枕木とレンガ、そして三和土で構成した質感が、場に馴染んでいます。
完成後、自転車を駐めてみることで、さらに空間が引き立ち、雰囲気を損なうことなく、機能的な日常生活を美しく送れる庭を生み出せたのではないかなと思っています。
Sさんは、雑木林を望むカフェのような雰囲気の庭を希望していました。
オープンカフェのテラスとなる部分は、枕木とレンガ、三和土で設えました。三和土の表情には特にこだわり、表面を荒く削り、ざっくりとした質感に仕上げました。ここでは、アンティーク調のレンガをお客様と共に選びに行き、色彩とテクスチャーを考慮して三種類のレンガを混ぜました。又、庭主さんが、イギリス製のアンティークの手押しポンプを用意してくれていたので、工夫を重ね、それをオブジェではなく実用のポンプとして設置しました。テラスから水汲み場に降りて行き、ポンプを漕ぐと水が出てきます。このスペースも、深さや、枕木のライン、角度にはかなりの試行錯誤を重ねました。
それに加え、樹種の豊富な雑木林の中には、菜園や落ち葉コンポストも、機能的にかつ美しく佇んでいます。落ち葉はコンポストへ、そこでできた堆肥は菜園へと循環して行きます。
Yさんの庭の広さは、間口3.3m、奥行き5m。小さな庭に下手に木を植えると、かえって圧迫感が出ますが、目線がすっきり通る下枝の少ない雑木なら、見通しの良い落ち着いた空間になります。そんな木々の下に、使い勝手の良い駐輪場を作りました。家族4人分の自転車をどう置くかという問題を克服することが最大のポイントでした。
めんどくさくならないようにスムーズに自転車を出し入れできることを第一条件に考え、道路側に駐輪スペースを設け、玄関までの道のりに、結界として、低いフェンスを作っています。
このことが、ものすごく広がりを感じさせることにつながり、空間を広く魅せる手法として、驚きの発見でもありました。雑木は、狭い空間でこそ、効果を発揮するもののようです。
Sさんの庭は、家と隣地の間の細長い地形を、どう生かすかということが課題でした。
家からだと、どうしても奥行きがなく、庭を堪能しきれない部分があるので、リビングからデッキを張り出し、そこから、縦に庭を見ていただくことで、奥深さを感じていただく方針にしました。このデッキは、古電柱の再生利用です。
この庭は、作庭後約十年が経過していますが、時の移ろいと共に、良さが醸し出されてきています。ちょうどガーデニングブームの時で、その傾向には疑問を感じつつも、どういう方向でやっていこうかと模索し悩みながら作庭していましたが、作り手はもちろん、庭主さんにも納得していただける庭ができました。数寄屋建築に添える庭作りをしてきて培った基本を元に、この後、今まで十年間続けてきている「自然な庭」という道を見つけた転機の庭でもあります。
そんな作り手の情熱を、庭主さんにも受け取っていただき愛情を持って、この庭は育まれてきました。
「あまり仰々しくなく眺めていて楽しいこと」という要望をいただきました。それに加えて、Nさんは、京都が大変好きなことから、家にいながら、その雰囲気を味わえるように 、祇王寺のようなイメージで空間作りをしました。玄関の方へと流れる小川を、上流へと遡って行くと、そこには水源である水鉢があります。
その背景は、隣地の緑を借景として、とても東京の郊外とは思えない山深さを感じられます。小川は、雨が降った時に、雨樋からの雨水を集めて流れるようにしています。
ただのエコロジーの実践ではなく、排水に美しさという要素を加えられないかと考えた結果、わくわくできる風景ができました。また、凛とした風情の漂う京風の庭の中で、延段には、枕木と御影石を使用し、伝統的な技法の中に現代的なスパイスを加えています。
今、庭主さんが日々愛情を持って庭を慈しんでくれていることで、林床は見事な苔で覆われ、色彩のコントラストの美しい空間へと成長しています。
雑木の庭では、下枝を払った木を密植します。
そのため、下の方には広い空間ができ、上の方では、楚々とした樹冠が広がり、空間を広く使うことができます。又、樹木はあくまでも自然に生えているように、傾けて植えています。細い幹を持つ雑木は少しの風でも、そよそよと揺れ、心地よさを味わえます。
ここ、Tさんの庭では、建物よりに土を高く盛り上げ大きな木を植え、そこから下がって行った谷沿いに、蛇行した小川が流れます。このことが、遠近感を出し空間の広がりを感じることができます。木の花は、新春の黄色から始まり、白、紫へと移り変わって行きます。この空間では、白と紫を基調にした色彩のコントラトを出してみました。
また、園路は、セメントを使わず、苦汁と石灰を用いた正真正銘の三和土で作りました。風化して、窪みができたところに、水が残り、やがて苔が乗ってきたりします。こういうものは時が経てば経つほど、風合いの魅力を増していき、風景に馴染んでいく気がします。
Fさんの庭には、雑木の植栽の下に石を無造作に組んで囲った中に窪みを設け、雨が降った時には、水溜まりができるようにしました。この石はセメントを使って組んだわけではないので、小動物達が入り呼吸のできる空間ができます。
実際、完成後には、どこからともなく蛙がやってきて、石と石の狭間は蛙達の住処となりました。住みつく為には、餌となる昆虫達がいなければならないので、良い環境となっているのでしょう。
植栽も石組みも、如何に野にあるように山にあるように自然に表現できないか、心がけているのですが、見えないところにも、できるだけ不自然な工業製品を使わないようにしました。環境だけでなく、蛙の目にも納得のいくビオトープガーデンが作れたのではないかと嬉しく思っています。
山で、木が風にそよそよとなびくような、柔らかく自然な庭を求めていたUさん。
特に添景物として景石やつくばい、石灯籠などを用いないで、植栽を中心に空間作りをしました。
空間にフォーカルポイントを用いず植栽だけで構成する事は非常に難しく、一歩間違えれば単調な植木畑になってしまいます。庭の敷地はL字形で、最大限に土地の形状を生かせるよう樹木の配置やバランスの取り方が大事になってきます。
第一のビューポイントは、庭の入り口から、雑木の柔らかい幹越しに家を望むところです。そこから、山道のように起伏があり、蛇行していく小道が、「この先はどうなっているのだろう?」「こうなっているのかな?」と、期待感を抱かせ、見る人を、奥へ奥へと誘って行きます。
そのために、樹木の気勢などを意識し、視線を誘導していくことを考えています。
ウッドチップを敷き詰めた空間は、落ち葉で一杯の本当の山の中のようです。
Nさんの庭は、3m×4mのわずかなスペースを既存の黒い板塀に囲まれ、ハナミズキが5本植わっていました。そのハナミズキは、丁寧に根巻きして搬出し、なじみの植木屋さんに引き取っていただきました。
そんな空間でも、雑木の寄せ植えをすると結構な本数が入り、それにも関わらず鬱陶しさは全くありません。そんな木立の元に、ここでは「沢」を再現しました。
ここは、庭へ出て何かをする空間ではなく、リビングからの眺めを楽しむための庭です。とはいえ、落葉樹を効果的に配したことによる温度調節の効果は大きいものです。
この沢では、流木の篔から、水が滴り落ち、水たまりに波紋を作り出している、そんな山奥の水源地の趣があります。山から崩れ落ちてきたようなごつごつした石が、より山っぽさを醸し出します。
Oさんは、雑木の庭の中に、パーマカルチャー的な要素を加えた庭を希望していました。
一番奥の日当りの良い場所には菜園を配し、棚田のように周囲を石で土留しています。見て眺めの美しい庭ももちろんいいのですが、ここではそれに加え、野菜を育てられる菜園があり、日本の里山を象徴するような柿やみかんを植え、収穫を楽しむことができます。高台の眺めの良い好立地にあり、そのテラスからは、庭の雑木林やたわわに実る果樹を近景に、街やその向こうの林が見渡せます。
もちろん生活の場であるので、そのテラスには洗濯物が並びますが、外から見ると、雑木の中に佇む洗濯物を干している家の情景が、ほのぼのとした郷愁を感じさせます。
Iさんの庭は、船を思わせる外観の家の深い軒の下にあります。幹のラインを考慮し、限られた空間を縫うように空へと延ばして行ける木を厳選しました。
隣家との境は六間分の板塀を作り、足下は、枕木と黒墨石、黒いピンコロ石、それに黒味の多い三和土で構成し、落ち着いた質感に仕上げました。照明の位置にも検討を重ね、夜暗くなるのを待ち、庭主さんにリビングからの見え方を伺いながら決めていきました。月や星の自然の光を損ない、環境と調和しないような光の乱用をするのではなく、メリハリの利いた適度の照明、光と闇の微妙なバランスを考えて、最低限の明かりを使っています。灯明を思わせる光の演出は、温かみがあり安らぎを感じます。ろうそくをつけるというのは、世界中の宗教行事で見られますが、この明かりが希望へ向けて捧げる灯になればと祈っています。
軒からは、雨水の排水がありますが、そこには石臼を設けました。これから、そこに庭主さん夫婦が、その雨水を受ける水鉢などを選んで置くことによって、この庭は完成します。
完成の最後の一手は庭主さんご自身でしていただくのです。この石臼を置いたことによって、庭主さんは、雨が降るのが楽しみだと言ってくださり、私達もとても嬉しく思いました。この庭は、作り手自身も、とても住んでみたくなる住環境の一つになりました。