生態系豊かで、健康な空間作り
生物の多様性に満ちた生態系豊かな庭を作るために、化学農薬を、極力使わないことはもちろん最低限のマナーとして、地中にビニールやプラスティックなどの無機物を埋設したり、構造物に有機溶剤を使うことも控えます。そして、大事なことは植栽においても、木漏れ日が林床の中木・低木に届くようにし、林床の健康を保つことで、病害虫の大量発生を防げます。また、その場所の地形や植生にあった自生する植物を使い、多様性豊かな身土不二の材料を使うことが大切です。
季節の移り変わりを感じる空間
また、落葉樹主体の植栽をすると、春は芽吹きを楽しめ、夏は枝葉が風にざわめき、日陰を作って、涼しさを家に送り込みます。実際、温度が二・三度下がることも実証されており、まさに天然のエアコンといえるので、電気代も押さえられ、二酸化炭素の排出量も減らせます。秋は、赤から橙、黄色まで、紅葉のグラデーションや、美しい実、それに呼び寄せられた鳥達の姿も楽しめます。冬は、木漏れ日が周囲を優しく包み、日だまりで、穏やかな気持ちを味わえます。美しい環境の中の庭では、四季折々の暮らしを紡げます。季節ごとに違った表情が見られ、木々や花、虫や鳥達の栄枯盛衰の物語がそこにはあるのです。
個々の生命が渾然一体となって
目指しているところは、新緑や、花、実、そして紅葉を楽しめることはもちろん、冬枯れの景色だけでも、感動していただける空間作りです。春だけではなく冬を、樹上の花だけでなく地中深くに張り巡らされた根を、植物だけではなく、それを食べにくる虫を、虫を食べにくる鳥を、土の健康を左右する微生物を統合的に慈しんで行きたいと思っています。庭では、個々の生命が複雑に絡み合い、渾然一体となって、小さなタペストリーを紡いでいます。一見、醜いと感じるものや、見えぬものにこそ、大切なものが詰まっているのかもしれません。
ちょっと前の普通の美しい暮らし
現代の産物である工業製品を庭に持ち込まないことは、ともすると昔の暮らしを賛美する懐古主義ともとれるかもしれません。しかし、美しい風景を、数世代先まで継続して受け渡して行けたとしたら、その未来には、おじいちゃんやおばあちゃんが当たり前にしていた、普通の美しい暮らし、懐かしい風景があるような気がします。