修練と探求の場
藤倉造園がより自然な作庭をめざすための実践の場として、山梨県上野原市の里山に実験の場「陶陽庭・静寂荘」をつくりました。我々職人は経験を積んでいかないと話になりません。自然な庭とはどうあるべきかを模索するためにお客様から依頼されてのお仕事をさせていただくだけでなく、自分たちの手で実験をし、研究する機会を作り、次につながる感性やセンス、そして技術を養っていかなくてはなりません。「陶陽庭・静寂荘」はそのための場です。
世界をつくる難しさ
自然に近い庭といっても、それは自然そのものではなく、人間が手をかけて創り出すものです。どうすれば、そこの地形を活かして世界を創り出せるのか? 水の流れをつくるにも、上流部分を山の渓流の雰囲気で、下流部分に向かうにしたがって里山の小川のようにと、自然の川のストーリーを表現するには、どうしたらよいのだろう? 朝、昼、晩の光の具合や、あるいは晴天と雨降りといった天候によって、庭の雰囲気はどのように変わるのか? 庭から建物へのアプローチ、建物から庭へでる時のこころもち。庭に接した空間で、一日を過ごすとどのような時間が流れるのか? 長い年月をかけて庭がどのように変化していき、全体としてどのような調和を醸し出すのか……。そういったことを探りながら、「陶陽庭・静寂荘」をつくりました。
果てなき課題
庭をより深く楽しむ添景物として、庵、炭窯、露天風呂をつくってみよう、そして、そこで流れる時間や作業を楽しむことを実際にわれわれ職人も体験してみよう。露天風呂ひとつつくるにも、給水をどうするのか、水勾配をつけての配管、熱いお湯にどう身体を慣れながら入るか、自然との一体感をどう演出するかなど、実際にやってみると様々な課題がありました。テーマはいくらでもあります。時間をつくっては、少しずつ試行錯誤しています。
季節と命がめぐる庭
数年経った今では、芽吹きの春、夏に天高く葉広げ秋には紅葉に輝き、そして寒い冬を耐えながら春を待つ雑木林。四季折々が美しくめぐる場に成長しています。緑一色の中、森林浴をしながら都会の疲れを癒せる石づくりの露天風呂もできました。なかなかの出来映えです。少しでも自然に近づけようと丹誠を込めてきた結果、2010年からはモリアオガエルが産卵に来てくれるようになり、生態系も豊かになってきたのかなと嬉しく思っています。こういったひとつひとつの試行錯誤の積み重ねでお客様によりよい提案ができるように、私たち自身も成長していけたらと考えています。